第47話 戯言
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『反魂の術』
禁術のひとつとされ、この世において決して使用してはならぬ術。
世の理を曲げる禁法であり魂を汚すものである。
対象者は一度はこの世に生を受けた者のみとする。術者には時間と労力が必要であり、高い力の持つ命が贄とされ必要不可欠である。
対象者は生き返るもその命を弄び朽ち果てるものならば二度と転生はかなわぬ。
また、対象者が他者に命を奪われれば術者もろとも朽ち果てる。
術者も対象者と同様、二度と転生をすることは叶わなく、その魂は未来永劫、無の層へと縛られる。
ソファに腰を降ろし頬杖を付きながらも器用に空いた片手でペラペラと本を捲って行く飛影、彼の眉間には深い皺が刻まれ、それを雑に閉じればテーブルの上に投げる。
投げられた古い本の背表紙には『禁書』と示され、それを鋭い瞳で見据えるのは腕を組み壁に凭れる蔵馬。
「ふん、この術はそんなに応用が効くのか?」
怪訝そうに蔵馬に視線を向ければ吐き捨てるように言う飛影。
「……。」
「…しかも、この術者ってのは誰でもなれるのか。なめた術だな。」
禁術を、しかも人間の娘が使用できるなどそんな簡単な術なのか。
それに「なってるんだからできるんだろ?」とテーブルを挟んだ反対側のソファに深く腰掛け頭の後ろで腕を組みながら横槍を入れる修羅。
彼らは栄子の部屋から少しでも近い飛影の部屋にいた。
「でも、操って契約させるなんてやっぱ妖怪だねぇ…。そんなに生きたかったのかな。」
こわいなぁ…と眉を寄せる修羅に、その軽薄な様子にイラつく飛影。
子供は部屋に戻ってろというものの、修羅は俺だって真剣だと言い張りここに居るのだ。
「それにしてもさ…操るって事はその時点では秀忠は生きてるんだよね??『反魂の術』って生きてる奴にも使用できるんだ。」
宙に舞ってた修羅の視線が蔵馬に向く。
「禁術は多種多様。代償は全て同様だが…きっと秀忠のは異例だ。酷くやり方を異なってる。」
伏せがちの瞳を上げれば翡翠の瞳が揺れる。
「……異例?」
「半妖の彼は自分が短命なのを知っていた。だから、一人二役を買ってまで反魂の術で生き返りたかった。」
蔵馬の表情が曇る。
それに顔を顰める飛影、そして修羅はきょとんとした表情を向ける。
「秀忠は人になりたかった。生まれ変われば人になれると思っていたんでしょう。だけど…」
ごまかしは禁術には通用しなかった。
そう、あの時は。
「生贄は…秀忠自身です。」
自身の命と引き換えに自分を再び生き返す。
彼が行ったのは禁術の理さえ曲げた自分勝手なものだった。
*********
禁術とは名ばかり
理を曲げた異例だってあるのだ
話された真実-…
呆然とする栄子を優しくも力強く抱きしめる鴉…否、秀忠。
「私はおまえと生きたかったんだ。」
「私の願いはそれだけだった。」
鴉は彼女の耳元で何度も苦しげに言った。
自分を生き返らせる為の生贄を自分自身にした秀忠。
禁術の理を曲げたやり方にごまかしは通用しなかった。
自然に転生として鴉として生まれ変わり…
禁術は失敗に終わったはずだった-…
だが…
鴉として生を受け、蔵馬に殺され、同じ業を受け蘇る前世の遠き記憶。
そう、きっかけは狐に手を掛けられた瞬間。
そして、呪いは年月を経て放たれた。
「鴉として…蔵馬に殺された瞬間、俺は全て思い出した。秀忠の時の記憶も、おまえの事も。」
切なげに…そしてどこか苦しげに呟き栄子を抱きしめる腕に力がこもる。
初めて発動される禁術。
秀忠は秀忠としてではなく新たな生まれ変わりであった鴉として再び蘇る。
そうそれは鴉でもあり秀忠でもあるのだ。
「私はあの時、生まれ変われなかった…。すぐにでも人間としておまえと共に生きたかったのに。短命でも蔑まされた身でもおまえのそばにいればよかったのだ。」
「……。」
「-…時間はかかったが、今この姿で生き返る事は私の意に反している。人になれる所か、妖怪で…しかも、贄を必要としなければ生きながらえない醜い体。…だが-…私は-…」
見下ろす真っ黒な黒真珠のような瞳が栄子を優しく見下ろす。
「ただ、おまえに会いたかった。」
「……。」
未だ呆然とする栄子を見れば鴉は薄く笑う。
「…何か、腑に落ちないとでも言った顔か。」
彼の冷たい指が彼女の頬を撫でる。
それに一瞬眉を寄せれば彼女の口は恐る恐るも開く。
「…秀忠、あなたは…ずっと死にたかったの?」
栄子自身、利用された事は不思議と腹が立たなかった。
それだけ彼は苦しくて手段がなかったのだ。
歪んでいるとはいえ自分と生きるためにその方法をとったという事もわかる。
そして…
(…それが、私を縛る事も彼なら分かっていたんだ…。)
彼を自分のせいで死なせてしまった罪悪感で縛り付けられた栄子。
「…おまえがあの狐を連れてきた時に思った。」
妖怪の血は妖怪で洗える…。
鴉は薄く微笑みを浮かべる。
「殺されたかったわけではない、だが…あいつは私を殺したくて仕方なかった。」
禁術のまじないの後に行われるのは秀忠自身の食事だった。
それに嫌悪感を抱いた蔵馬が手を下したのだと、彼はまるで人事の様に笑みを深める。
「……。」
「馬鹿な狐だ。」
栄子自身、分かっていた。
彼がここで肯定したとしても自分の中の罪が消えるわけではないと。
だが…どこかで…
「栄子よ…」
栄子の思考を読み取ったように鴉の瞳が細くなり口角が上がる。
「おまえも先程…聞いたのだろう?」
その言葉に思わず顔が歪む。
薄暗い意識の中。
聞こえた…愛しい彼の声が脳裏を回る。
「おまえと共にいれば私は空腹にも耐えられる。」
つつっと首筋に指を滑らす鴉に、何を言いたいのかが分かり思わず身が震える。
生贄がいらないわけではない…
だが…
「術者は対象者に与えれるものが沢山ある。」
そう、それこそが契約。
繋がれ縛られる関係。
「そして、あいつも…」
手を汚すことは無いだろう…
そう薄く微笑み呟く鴉。
(あぁ…本当に捕らわれた…)
そう-…今でも脳裏に残る…
意識が朦朧としていた栄子の耳に確かに入った彼の声…
『俺が食料の女を運んでやる』
凍るような冷たい声に…
それでも私の為に放った言葉…