第45話 巡る命
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それは蔵馬と飛影の試合の次の日の午後。
躯の部屋での事だった-…
躯は自身のソファに深く腰掛け頬杖を付きながらも目の前の光景に楽しそうに目を細め微笑む。
その隣には顔を顰めた奇林の姿。
ショリショリと髪を切る音に、ぱさりとそれが床に落ちる。
器用に手際よく切って行く驥尾に、彼女を背に鏡越しで自分を見つめる栄子の姿。
「出来ましたよ。」
驥尾の声と共に栄子は改めて鏡越しで自身を見つめる。
背中ほどまで伸びていた髪はばっさりと切り、今では肩につくかつかないかの短さだ。それでも少し梳いてももらったので見た感じではもっと短く見えるのだろう。
「これ、私…。」
ここまで思い切って切ったのはどれくらいぶいだろうか。
鏡越しに映る躯がソファから立ち上がりこちらへくれば後ろから髪に手を通す。
「似合うじゃないか、栄子。」
「そうですか?」
なんか首元がすうすうして落ち着かないけど、と笑う栄子に躯はじき慣れるさ…と微笑む。
「まさか、髪を切ると言い出すとわな。」
躯はやれやれと苦笑し、彼女の頭をくしゃりと撫でる。
「そ、それは-…」
*******
『どう責任をとるつもりだ?』
あの後呼び出され冷たく言い放った躯。
『よくもまぁ俺の顔に泥を塗ってくれた…』
そう言う彼女だったが怒るというより楽しんでいるように見えたのはきっと気のせいではない。
試合を中断させた時からすでに覚悟していた。
蔵馬を棄権させたのも自分だ。
躯にこんな風に責められるのは仕方がない。
『躯さん、私-…』
『おっと、仕事をやめるとか謝罪とかいらんからな。』
『え…?』
『反省なんてしてないだろ?』
呆れつつも笑みを浮かべる彼女に心が痛む。
『…それは…』
躯に対して悪いとは思っている。
でもどちらにせよ先に釘を刺されたとしても止めに入っていたのは事実。
『お前の行動を責める気はないさ。だが…』
『……躯さん。』
『わかるな?』
それだけ心配させたんだ。
躯は瞳を細め優しく微笑んだ。
********
「なかなか切るきっかけもなかったし、ちょうどよかったんです。」
自分の髪を触りながら躯を見上げそう言う。
「綺麗な髪だったのに、もったいない。」
だが、髪は女の命だと言うしな、おまえの覚悟はしかと受け止めた…と彼女は笑った。
だが躯の後ろで渋る奇琳。
それに躯はやれやれと苦笑し-…
「お前も男の大事な物を切り取れと言われればそう易々と捧げれんだろ?」
と言えば奇琳は意味がわかりません…と眉を寄せるものの渋々納得した。
「もう試合を中断させるなよ?」
微笑む躯に栄子はただ罰が悪そうに微笑み頷いた。
そわそわする…
躯の部屋を後にすれば自分の部屋へと向かう。
すうすうする首筋が未だ慣れず、異様に頭が軽い気がする。
「ちょっとそこの、いちゃいちゃしてたお姉さん。」
いきなり後ろから嬉しくない言葉で呼び止められゆっくりと振り返る。
こんな事を言うのはただ一人、だ。
「修羅君…。」
手を振りながら寄って来る彼に、大きなため息をつく。
「あれ、髪切ったんだ。」
「…うん、反省もかねて。」
「へぇ、でも反省してないでしょ?」
腕を後ろで組み平然と毒を吐く。
「……。」
「てか、かわいいじゃん。髪。」
組んでいた腕が解かれ、修羅の指が栄子の髪に触れる。
「…そう?ありがとう。」
「…結構髪柔かいんだね。」
へぇ…と、くるくると髪の毛を指に巻き感触を楽しむ修羅。
「そうかな。でも短くすると癖も出るから明日から大変だわ。」
「いいじゃん、俺なんて直毛だし癖少しくらい欲しいけどな。」
いいなぁ…と髪を見つめ未だこねこねと指で遊ぶ。
(いつまで触ってるんだ、この子。)
と、そのときだった。
がちゃりと側の扉が開けば中の彼と目が会う。
「あ…」
(そっかここ…)
「……。」
飛影の赤い瞳が一瞬大きくなるもののすぐさま元に戻る。
そして再びドアが閉まる。
(え…え…なに、今の。)
「……ふーん。」
それに修羅はなるほどね…と目を細める。
「…な、なにが?」
目があえば無言の上、再び扉を閉められるとは…。
「いや、別に。」
「なんか、怒ってるのかな?やっぱり試合中断させたこと…。」
あわわと青ざめていく栄子に、呆れた様に目を細め息をつく修羅。
「まぁ、それもなくはないだろうけど。もっと根本的なことだと思うよ?」
「え、え?」
「だって俺、なんとなくわか-…」
言いかけて、無言になればじっと栄子を見て、首をかしげる修羅。
「え?な、なに?何が?」
「…いや、あれ?…なんだろ。」
んー?と眉を寄せ逆方向に首をかしげる。
「…修羅君?」
「あれ、やっぱわかんないや。まぁ、いっか。」
けらけらと笑う彼に、なによー!!と頬を膨らませる栄子。
そんな栄子の姿を見て、再び修羅の中で何かが疼くがそれが何か少年には分からない。
「とりあえず飛影に謝まった方がいいよね。」
今行こうかな!!と慌てて扉の取手にかけようとする栄子の手を掴む少年。
「やめときな、しばらくほっといた方がいいと思うけどな。色々とめんどくさくなるかもよ?」
「…なんで?」
「勘。俺の当たるぜ?…それに今思い出したように謝りに言ってもどうかと思うけど…。」
とにっこりと微笑む修羅に栄子は眉を寄せ俯く。
(それもそうかもしれない…。)
たった今まで彼が怒ってるかもなんて思いもしなかった栄子。
彼の様子を見て気付いたものの、謝るならしっかり折を見てちゃんと謝った方がいいのかもしれない。
「修羅君って…意外としっかりしてるんだね。」
彼を見上げ苦笑する。
「そう?俺、結構適当だけど。」
悪戯気に笑う修羅。
確かに…。
それは否定できないものの、こういった時は何気に的を得ているなと栄子は思う。
「この前彼女連れて来た時は驚いたけど、なんとなく納得。」
「え?彼女??」
「この前、お城のディナー一緒に食べていた子よ?とってもかわいい子だった、彼女でしょ?…まだ早いんじゃないかなって思ってたけど、そうでもないのかもね。」
それに頬をぽりぽりとかく修羅。
繁華街で出会った少女の事だ。
何気に仲良くなった彼女と会ってはいるがそういった関係ではない。
城のディナーも食べてみたいと言っていたから連れてきただけのこと。
そういえばあの時栄子に出会ったのを思い出す。
あぁ…と低く曖昧につぶやく修羅に栄子は次の瞬間そうだわ!!と顔を上げる目を輝かせる。
「修羅君今まで誰かと付き合った事あるの?」
「……なんで?」
嫌な予感がする修羅。
そういった経験がないわけではないが、恋というものは正直わからない。
「初めてなんでしょ?」
「…(思い込みかよ。)…だったら何?」
「私がこれから恋愛レッスンしてあげる。」
目を輝かせ言う栄子。
どこぞでよく耳にしていたレッスン模様。
さっきまでしょげていたのは気のせいだろうか。
思わず修羅の口が引きつる。
「……いや、いいよ。」
「私もね、しゅ…いや、色々人にレッスンしてもらったりするんだけどね。結構為になるんだよ?」
「へぇ…でも俺、別に困ってないし。」
それにあいつは彼女でもないし必要ないし…と心の中で呟く。
それにしても、どこのおせっかい女だ…と目の前の栄子を呆れた瞳で見るも、今の彼女は空気が読めないようだ。
「いいっていいって。でもレッスンとか固苦しいし、今修羅君大事な時期だから。…何かあったらいってよ!」
彼女の勢いに苦笑する修羅。
(なんだ、この百面相な女。)
凹んでいたと思えばいきなり目を輝かせ思考が切り替わる。
以前もこういった事があった気がする修羅。
彼女のこれも親切心から出ているものなのかもしれないが、なんとなく先が思いやられる。
「わかった…また何かあればいうよ。」
とりあえず返事を待つ彼女に、適当ながらも相槌を打つ修羅だった。
そして改めてまた思う。
狐も飛影も大変だ…と。