第44話 重ならぬ想い2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
だが-…
「関係あるもの!!」
「…どう、ある?」
狐の冷ややかな声と、金の瞳がさらに不機嫌に細くなる。
それに一瞬、うっと詰まる栄子だったが再び視線が彼の腹に行けばふるふると首を振る。
「私には関係あるもの!!秀ちゃんが、蔵馬がそんなに怪我するの嫌だもの!!」
「……これは試合だ。おまえのそれは我侭だろう?」
心配されるのは嬉しくとも場合が場合だ。
「そんなにまでして何が欲しいの!?」
じっと狐の瞳を見る栄子は痛々しそうに顔を顰める。
こんな怪我を負ってまで何が欲しいのか…
そんなにも魔界の天下が欲しいのか。
「……。」
「蔵馬は何が欲しいの?魔界が欲しいの?こんな怪我してまで欲しがるものなの?」
「…栄子。」
「我侭でもいいもの。いなくなったらとか…死んじゃうかもとか…そんな事考えるの嫌だもん!…分かってるくせに…。」
興奮しているのか栄子の瞳に涙が溢れる。
今自分が言っている言葉を理解しているのだろうか?
時折このように感情的になる彼女は昔からなかなか手がつけられない。
「お願いだから怪我しないでよ…。」
泣かないと我慢しているつもりでも頬には無常にも涙が流れ、ころころと氷泪石が地面に転がって行く。
「……。」
「私の事一番に分かってるくせに!!私より私の事分かってるくせに…」
「それは…どっちにいってるんだ?」
微かに切なげに揺れる金色の瞳。
薄っすらと混ざるのは翡翠の色…。
「どっちで、あなた達に言ってるの!!決まってるでしょ!!」
あなた達…。
泣き顔でまっすぐに見るのは紛れもなく、蔵馬と…秀一。
「怪我しないって約束したじゃない。蔵馬も秀ちゃんも約束破らないじゃない…破ったんだからもうやめてよ。見てられないよ。」
「……。」
甘い彼女。
昔から変わらなく、自分勝手でとても甘い。
「…お願い、蔵馬。もうやめよ。」
真っ赤な瞳と、涙で濡れた頬。
…わがまますぎる。
狐は瞳を伏せ呆れた様に息をつく。
そして…
狐は目の前の男を見上げる。
それに飛影は気付くと瞳をゆっくりと細め息をつく。
「…いいのか?」
「あぁ。」
それにふんと鼻で笑えば、じゃぁな…と身を翻し去って行く飛影に、すぐ側できょとんとする栄子。
「??…え、飛影…?」
そして振り返り蔵馬を見ればそこには苦笑する男の姿。
先程とは変わり腰を降ろし片膝を立てている。
「え…え、え?」
去って行く飛影と腰を降ろす蔵馬を交互に見れば意味が分からず首を傾げる。
「…飛影…トイレ?」
それにくすくす笑う狐。
先程の様子とは打って変わって柔らかな彼の雰囲気にますます意味が分からない。
「もっとこっちへこい。」
十分近いと思う栄子だったが、言われたとおり距離をつめる。
そして彼の顔を覗き込む。
「蔵馬?」
このいきなりの雰囲気の変化はなんだろう?
「治してくれるのだろう?」
「!!!?…いいの!!?」
「なんのために棄権したと思っている。」
「!!!」
驚く栄子を他所に楽しそうに笑う蔵馬。
「本当にお前には参る。」
そう言えば額に冷たい唇が触れる。
(…!!…)
思わずその懐かしい感じに胸の奥が一瞬熱くなれば額に手を当てる。
あの蔵馬だ…
いつもの秀一だ…
じんわりと再び涙腺が緩む。
「ありがとう、棄権してくれて。」
恥ずかしさと嬉しさを笑って誤魔化した。
それにただ狐は微笑み彼女の治癒に身をゆだねるのだった。
胸が痛い…
息が出来ない…
苦しい…
分かっていた事なのに…
歩く足を止め立ち止まればそのまま天を仰ぐように顔を上げる飛影。
忘れたい…
忘れたい…
忘れたい…
側にある木に凭れれば身を預けるようにずるずると地面に下がって行く。
淀んだ魔界の空が目に入る。
癒えたはずのあの頃の感情に似ている
「どうして…」
こんなにも
彼女が憎くて仕方がない…