第44話 重ならぬ想い2
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激しい攻防が繰り返される。
空を線状のものが走り、時に宙で地で激しくぶつかる。
大気が歪み地が割ける。
かれこれ開始してから二時間が過ぎようとしていた。
大きく大気中でぶつかれば地に投げられる二つの体。
飛影は激しく背から地面に叩きつけられ、狐も地面を削るよう痕を残し倒れこむ。
「く…」
それに腹を押さえ片膝を突き上半身を起こす蔵馬。
腹の部分から真っ赤に染まっていく白装束。
そして、狐から少し離れた先には、顔を歪め体の痛さに耐えながら起き上がる飛影。
既に右腕の骨は砕かれ、ただぶらんと下がる腕を左手で押さえ狐に近づいて行く。
「…やはりお前は甘い。」
「……。」
歩み寄る飛影に、それでも体制を変えないままの蔵馬。
「いつからそんなに甘くなった。」
見下ろす赤い瞳。
そして左腕を上げれば狐に手のひらを向ける。
「腕は二本あるんだぜ?」
そう目を細め口角を上げる。
しかしそれに狐は目を伏せくすりと笑みを浮かべる。それに怪訝そうに眉を寄せる飛影。
「…なにがおかしい。」
「おまえこそなぜ切れたのに切らなかった。」
再び開き見上げた狐の瞳が細くなり口元は孤を描く。
「……。」
自然に致命傷は避ける。
殺し合いではない…
それは互い共良く分かっている。
「甘いのはお互い様だ。」
「…これで終わらせるつもりはないぜ?蔵馬。」
「あぁ。」
あたりまえだ…と狐は笑みを浮かべ、飛影はふんっと鼻で笑う。
そのときだった。
「終わりぃぃ!!!」
聞こえるはずのない声が辺りに響く。
それに大きくため息を吐き肩を深く落とす飛影に、額に手を置きやれやれと息をつく蔵馬。
遠くの方からずかすかとこちらに歩いてくるのは眉のつり上がった栄子の姿。
「…あの女…」
ちっと心底忌々しそうに舌打ちをする飛影。
蔵馬も大いに呆れた様に目を細める。
「二人が当たるなんて聞いてないし!!!それにあんな危ない戦いして、怪我しないって約束わすれたの!!?二人とも!!」
そんな約束などした覚えはないものの、どうやら栄子の中では成立しているらしい。
しかし栄子はふたりに近づくにつれ次第に顔が青ざめていく。
「な…ななななな…なにそれ!!」
彼女の目に入るのは、ぶら下った確実に複雑骨折して使い物にならない飛影の腕に、白装束は真っ赤に染まり未だ染みが広がって行く蔵馬の腹。
「なんでこんな怪我してるの!!!!???」
聞いてない!!とさらに激怒する栄子。
それに馬鹿かこいつ…と眉を寄せ目の前の彼女を飛影は呆れた様に見つめ…
「試合なんだから仕方ないだろ。おまえ、こんな所に来ていいのか?」
治療の仕事はどうした…と息をつく。
それに、はっと目を見開き頭を抱える栄子の様子に後先考えず勝手に行動してしまったのだろうと想像がつき心底呆れたとはいうまでもない。
「馬鹿か、おまえ。」
やれやれと息をつく飛影。
そして…
「栄子…」
低い声が耳に入る。
栄子の視線はゆっくりともう一人に移る。
銀色の髪の金の色の瞳を持つ妖怪に。
「おまえ…一人でここまで来たのか。」
金の瞳を細め、優しく言うも怒りを含んだその声色に思わず唾を飲み込む。
だがそれも一瞬だ。
以前の事があり遠慮がちに言葉を続けようとした栄子だったが改めて目に入った彼の血の量に驚く。
酷い怪我だとは思ってはいたが、地面に出来ていく血の池に一気に背筋が凍りつく。
「く、蔵馬!!その怪我!!!」
思わず彼の前にしゃがみ込み腹の様子を見ようと覗き込む。
血が流れ過ぎている。
下手をすれば命に関わる。
「問題ない、止血剤がある。」
そう言えば懐から何やら出しそれを口に入れる。
「え…だ、だめ!!だめだよ!!もう戦ったらだめだからね!!!!」
ふるふると真っ青になり首を振る彼女に珍しくも若干の苛つきを感じる狐。
「栄子、いいかげんにしろ。ここは試合会場だぞ。おまえは関係ない。」
不機嫌そうな狐の声色。
場合が場合という理由もあればそれだけではない。
彼女の一人で行動する無謀さ。
躯の治療班だからと安心していたらこれだ。
下手をすれば彼女の命さえ危険に晒すのだ…
狐の不機嫌は彼女の登場から徐々に不機嫌を増していっていた。