第42話 予選の合間2
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「不思議だなぁ…。」
修羅はテーブルに頬杖を着き、椅子に腰掛け本を読む父親、黄泉を見て呟く。
「どうした、修羅。…この本か?これは-…」
「知ってるよ。文字が脳に送られる様になってるんだろ?一種の魔術だっけ、その管。」
黄泉の額に付けられた細い管。本の背から額に続く管は吸盤の様に肌に着いている。
大抵の本はその管のおかげで黄泉は本さえも読むことが可能なのだ。魔女に依頼し魔術より生まれた魔法の管、未だ解明されていない部分が多いものの文字を瞬時に解明し脳に送るという優れたものだそうだ。
だが修羅が気になるのはそれではない。
「…何か気になるか?」
「父さんっていつ修行してるの?…日に日に強くなっていく気がするんだけど。」
「なんだ、そんな事か。おまえだって強くなってきてるんだぞ?」
自分では気付かないかもしれないが…と微笑む。
「強くなればなるほど父さんが遠くなって行く気がする。」
不機嫌そうに目を細め呟く修羅に黄泉はそれはおまえが強くなった証拠だぞ、と言うものの少年の表情は億劫なままだ。
それにやれやれと息を付く黄泉だったが、自分とていきなり強くなったわけではない。
積み重ねてきたものは数知れず、それでも若かりし頃は血の気も多く、いかに周りに自分の脅威を知らしめたかったことか。
今となっては本当に無知で恥知らず、だ。
だが、それがあってこそ今の自分がいるのも事実。
がむしゃらに突き進み、道を誤り引き返す。
そして自分が誤った道を選び進んだ分だけさまざまな知識を得、力さえも得る。
「無駄な事は何一つないぞ、修羅。」
そう無駄な事は立ち止まる事だけ。
黄泉が修羅に何度も言ってきた言葉、だ。
「…幽助には勝てるかな。」
テーブルに突っ伏す修羅。
修羅はなぜか異様に幽助をライバル視している。
今はまだ予選だが、本戦になれば近々対決できる相手なのだ。
「なんだ、自信が無いのか?」
「ないわけないじゃん!!父さんは俺が負けると思うの?」
思わず身を起こす修羅。
「さぁな、ただあいつに騙しあいはそうそう通用せんぞ?」
「えぇ、俺結構頭脳派なのにぃ。」
「やればわかる。頭を使う戦闘はおまえはきっともったいなく感じる。そんな奴だ。」
「ふうん。…あんまり分からないけど。まぁ、楽しいならいいよ。」
嬉しそうににっこりと笑う修羅に、黄泉はそれは保障しようと微笑む。
「…でも、俺…」
何を思い出しているのか、だんだん青くなっていく修羅。
「…蔵馬とは絶対当たりたくないな。」
とぽそりと呟く。
彼の脳裏には先日の狐の仕置きが蘇る。
あんな嫌がらせもう嫌だ。と、両腕で体を抱きふるふると首を振る。
「…くく、確かに、おまえと蔵馬の相性は悪そうだ。」
修羅の様子に思わず噴出す黄泉。
「俺、あいつが焦ってあたふたする姿想像つかないんだけど。」
背筋が凍るような冷たい翡翠の瞳に、薄く笑えば、ゆっくりと自身に手を伸ばした狐。
修羅の脳裏で巡る仕置きのあの日-…。
青ざめて行く修羅に、ちゃっかりと恐怖心を植えつけられたな…と苦笑する黄泉。
「あの人間の娘の前ならそうでもないぞ?」
「栄子の事?」
「あの娘が死ねば蔵馬はきっと抜け殻の様になる。」
「……。」
以前、見知らぬ黒髪の男にも同じような事を聞いたのを思い出す。
そんなにもあの狐はあの人間に執着しているのか…、修羅自身理解しがたい感情だなと眉を寄せる。
「もっと美しい女はいるのにな、あのような娘に…馬鹿な狐だ。」
それにしてもだ-…
「……父さんって-…」
修羅は思う。
「なんだ?」
「栄子の事嫌いなの?」
「……。」
「あ、蔵馬が好きなんだ。」
ぽんっと手を叩き言う修羅に、なんでそうなる。と突っ込みたいものの、先日幽助にも同じことを言われているため思わず苦笑。
「でも、蔵馬もなんで栄子なんだろうね。人間なのに。」
「恋に人種は関係ないのだろう。」
「え、父さんも肯定派なの?俺、やだなぁ。俺だったら可愛くてスタイル良い妖怪がいいよ。」
「そうか、ならおまえは愚かな道にいくな。」
「……。」
肯定しといてそれが愚かとは一体自分の父親は何が言いたいのか、修羅は意味が分からず首を傾げる。
「誰かを好きになるのに理由は必要ないものだ。
だから道を誤る…そう思えば中には無駄な道もあるのかもしれんな。」
黄泉は再び本に視線を戻した。
先のない結果を知り得て行動することは愚かのなにものでもないのだと…
それはただ自身を縛りつけるだけの事だとなぜわからないのか。
「……恋、か。」
再びテーブルで頬杖を付くと窓から外を眺める。
青い空。
珍しく天気の良い魔界。
微かな風に乗って香るのは良く知る人間のシャンプーの香りと薔薇の香り。
それに修羅は外に視線を泳がせるも、姿の見えないそれにただ瞳を細めるのだった。