第42話 予選の合間2
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日向ぼっこは昔から大好きだ。
幼い頃、休みの天気の良い日には、母親に怒られながらも屋根で寝転びながら太陽を浴びていたのを今でも思い出す。
(寝てる…)
栄子はじっと彼を見やる。
珍しく天気の良い温かい日差しの休日。
仕事で疲れた体を癒す為、とりあえず魔界の温泉につかりそのあとぐっすり寝てやろうと朝から行動していた最中。
その温泉帰り、躯の城の庭に目をやると見慣れた赤い髪が気持ち良さそうに風に吹かれていた。
草原地帯の斜面に寝そべる幼なじみ。
温かな澄んだ空気の微かな風に、心地良い花の香り、そしてこの気候の暖かさ。
なぜか異様にうらやましくなった栄子は荷物を自室に置きに戻ると、再び彼の側へ行き隣に腰を降ろす。
声をかけることもない。
彼は寝ているのだから、例え起きていたとしてもこの気持ちの良い空間を邪魔しようとは思わない。
草の上に寝そべると自然と閉じて行く瞼。
未だ湿った髪を風が緩やかに乾かしていく。
ゆっくりと翡翠の瞳が開く。
両腕を頭の後ろで枕にし、仰向けに寝ていた彼は視線だけを隣の彼女に向ける。
こちらに顔を向けながら身を縮こませ規則正しい寝息を立て眠る栄子。
穏やかな空間。
こんな日も確かに沢山あったのだと秀一は視線を戻すと再び瞳を閉じその感覚に浸る。
「……わたしのドーナツ…」
彼女の寝言は昔からよく聞く。
もう慣れっこだ。
しかし-…
「しゅう、ちゃん…」
「……。」
再び瞳をゆっくりと開ける秀一。
顔だけ声の主に向ければ微かに微笑んだ表情が目に入る。
良い夢でも見ているのだろうか。
その表情に彼の顔にも安堵の笑みが浮かぶ。
伸ばす手に、彼女の頬に触れる指に柔かさと体温を感じると、しばらくして離れる。
ここにいるのだ。
それだけでも彼にとってはなによりの真実。
そして、いくら自分が寝ているといえど隣に来るこの以前と変わらない彼女に複雑な心境を抱きつつも嬉しくもなるのも事実。
しかし、再び頭の後ろに戻そうとした腕を何かが引き止める。
腕を辿った先にある白い手。
無意識に追いかけたのか。
未だ寝ている彼女の手が秀一の腕の裾を掴んでいた。
「…甘えた、だね。本当に。」
呆れた様に言うものの、自然と口元が綻ぶ。
秀一の手を意識なく引く彼女は彼の手が自分の側に来たと分かるとあたかも自然にそれを頬に当て自分の手を重ねる。
まるでそこに置くのがあたりまえだと言わんばかりの行動に、一瞬目を丸くし驚いた彼もついにはくすくすと笑う。
柔かくなる彼女の表情。
目元が緩み、少し開いた桜色の唇に顔の緊張が解れたのだと分かった。
安心と信頼。
無意識だからこそ困る。
「勘弁してよ。」
頬に手を当てたまま身を起こし彼女を見下ろす。
伏せた翡翠の瞳、彼女の唇に吸い寄せられる様にそれは降りて行く。
無防備な君が悪いとそう心の中で悪態を付きながらも、優しくそれに触れる。
離れれば、名残惜しくもう一度口付けを落とした。
「…安心、ね。」
ゆっくりと離れれば、彼女を見下ろしながら自身の唇に指を当て呟く。
複雑な心境の中、自嘲気味に微笑み息を付いた。
それから約3時間後、栄子が起きるまで秀一の手が開放されることは無く、目が覚めた栄子は彼に抱きしめられていたとはいうまでもない。