第41話 予選の合間
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最近はどうしてこうもタイミングが悪いのか。
一気にかたを付けようと思い放った黒龍派。
残ったやつらは適当に片付けた…が。
激しく扉を叩く音。
そして自分を呼ぶ声。
無性に眠くて、しかも無性に機嫌が悪い。
帰り先で出会った狐にあぁ釘を差された後でこれだ。
俺の身にもなれ…。
「飛影ー!居るんでしょう?居留守は受け付けませんよー!!」
無視を決め込むもあいつには俺が部屋に居る事はばれているらしい。
「飛影…疲れてるの?」
「……。」
「また黒龍使っちゃたの?私、きっと黒龍も回復させられるよ、きっと。そうしたら眠気も吹き飛ぶかもしれないよ。」
「……。」
「飛影ー…飛影ー…まだ寝てないよねー?」
…しつこいな。
何かあったのか?
「まぁ、いいや。ここから念を送ってみるから回復したら-…」
「入れ、あほ。」
人の部屋の前でこいつは何をするつもりだったのか。
おもわず開けてしまった。
そこには、ほらいたぁ~!と満面の笑みで自分を見上げるしゃがみ込んだ栄子の姿。
その姿から、今こうして開けなくともしばらく居るつもりだったのだと想像がつく。
とりあえず部屋の中に入れるものの、たいした傷もなければ体調も悪くはない。
悪いのは機嫌だけだ。
あとはさっきから睡魔がどんどん襲ってくる、それ位だ。
じっと自分の様子を見る栄子の視線が気にならないわけではないが、ここにいても俺はどうせもうすぐ意識が無くなる。
「ささ、じゃぁ横になって。で、腕出して。」
「…俺は寝るぞ。」
言われなくても自然と足が向かう所は自分のベット。
それにしてもいつ自分の黒龍が知られていたのだろうか。
彼女には何も言ってなければ見られた事もないはずだ。
だが、うつろな思考の中ふと浮かんだのは妖精の泉での出来事。
寝ている自分を肩に担ぎ運んでくれていた事を思い出す。
ベットに仰向けに倒れると重力に逆らう事無く身体が柔らかなそれに沈んで行く。
自然と閉じる瞼に、抜けて行く力。
本当にもう少し遅ければ彼女の気配にも声にも気付くこともなかっただろうに。
「黒龍さん、今回復してあげるからね。飛影もね。」
腕に感じる温かなオーラが、徐々に血液の様に体の中を駆け巡り、じんわりと全身に広がって行く。
心地の良い霊力。
妖怪ゆえ、妖気でしか回復されないと思っていたのはどうも違うらしい。
結局の所、霊力だろうが妖力だろうがどちらでもかまわないのだが。
「むむ…酷い疲労。」
横になればすぐに眠ってしまった彼…。
さずがというべきか。
彼の疲労は底が見えない。
自分の命を削って黒龍を使っているのではないのだろうか…それほどまでに疲れきっている。
以前驥尾に飛影の意識が無い時に黒龍に触れるのは危険だと聞いてはいたが、治療ならば問題はないだろう。
それにしても-…
「あんまりお勧めしないなぁ。」
それでも休めば体力も妖気も回復するから何度も使えるのだろうが。
しかし、これは一日一度までの技。
それ以上は彼の生命をも危ぶめる。
栄子の霊力を使っての治癒も一時間が過ぎた頃。
額に浮かぶ汗を拭い彼女は一息ついた。
「終わった。」
その安心からか、一気に体から力が抜けすぐ側にある椅子に腰掛ける。
それにもたれ天井を仰ぐ栄子。
高い天井に大きなシャンデリアが目に入る。
なんとなくその豪華なシャンデリアが意味のないものに見えてくるのは気のせいだろうか。
飛影の部屋には物が少ない。
彼は自室を寝るだけの部屋にしているようだ。
部屋の中を見回しても分かる。
豪華な装飾品も彼にとっては意味のないもの。
毎日メイドが変えてくれている花瓶に差された花達だってそうだ。
ぼうっと天井を見つめたままでいると瞳が徐々に落ちていく。
(…そういえば、秀ちゃん機嫌悪かったな。)
先程の事が脳裏に蘇る。
ここ最近、彼と自分との関係は明らかに以前とは変わってきている。
当初はそれこそ彼を警戒していたものの、培ってきたものはそう簡単には切り替えられないようで自然と彼の側に足を運んでしまうのはもう癖としか言いようがない。
彼がいつも通りだとすぐに安心すらしてしまい自分に想いを抱いてくれている事さえ忘れてしまう。
「まいったなぁ…」
本当に参る。
蔵馬だからこそ、なおさらだめだと分かっているのに…それこそどう転んでも消せない過去だと知っているのに、どこかで嫌じゃない自分がいる。
「何が参ったんだ?」
声と共に顔に影が落ちる。
ハッとして視線を定めれば、自分の顔を見下ろす赤い瞳。
驚いて体制を戻す。
「意外とやるじゃないか。」
彼は口角を少し上げ、治癒の能力は必須だな、と栄子の額を軽くこつくと、軽く腕を回す。
「…飛影の体力ってすごいんだね。」
思わず目が見開く。
あれほどの疲労を抱えすでに目が覚める彼に驚く栄子。
彼はすぐ側のソファに腰掛けると、赤み掛かった瞳を自分に向けるものの、何かを思い出したように目を伏せ苦笑する。
「……なに、思い出し笑い?」
せっかく治療してあげたのに失礼な人である。
「…いや、この前も思ったが、おまえがこうも成長するとはな。しかも役に立ってる。」
昔は泣き喚いてたただのガキだったのに。と彼は面白そうに笑う。
「飛影と会った時期はガキじゃないし…可憐な女の子だったし。」
魔界で彼と出会い、確かに毎度毎度世話を焼いてもらっていた。
始めは何度も見捨てられそうになっていたものの心細くて泣けば彼は嫌々ながらも側にいてくれていたのだ。
よく泣き喚いていた時期もあったかもしれないが、自分なりに彼の役に立とうと頑張っていたことだってあったのだが。
結局は裏目に出てしまい逆に彼に沢山迷惑をかけていたとはいうまでもない。
「可憐な年頃の娘が年頃の男に側にいてくれと?ならあれは俺を誘っていたのか?」
気付かなかったぜ。と目を細め意地悪そうに笑う。
「さ、誘う…だなんて!!」
冗談といえど、思わぬ言葉に目を見開き一気に赤くなる。
「安心しろ。願っても襲わん。」
「……ひどい。」
襲われたら大いに困るものの、やっぱり色気ないんだ…と肩を落とす。
そういえば魔界で彼と一緒に居た時も同じ事を言われた記憶がある。
それもあり彼の側は尚更安心できたものだったのかもしれないが。
「なんだ、襲って欲しいのか?」
「躯さんみたいな事いわないでよ。」
彼の悪ふざけもたまに質が悪い。
上司が上司なら部下も部下か…
面白そうに笑う彼。
それでもとても感謝している。
「…ありがとう、飛影。今更だけど、あの頃は色々とお世話になりました。」
ずっと言うつもりで忘れていた。
「今更だな。」
ふふんと鼻で笑う彼。
相変わらずだがそれが彼、だ。
「沢山助けてくれて、沢山迷惑かけて…ずっと言う機会あったのに、忘れてた。」
「忘れるくらいの感謝なんだろ。」
…嫌味は忘れないらしい。
それでも慣れっこだ。
彼の言葉に笑みが漏れる。
「魔界でもそうだったけど、人間界でも辛い時、側に居てくれた。本当に感謝してるよ。」
幼なじみに見捨てられたかもしれないと不安だった頃。
彼は側に居てくれた。
理由はなんにしろ心配してくれた。
「……。」
「あなたはいつも私が寂しいとき、絶対側にいてくれたよね。それってすごくない?スーパーマンみたい、って古いか。」
ふふふと笑う栄子。
「…あぁ、そうだな。」
飛影の顔が曇る。
彼の低くなる声に栄子は気付かず椅子から降り-…
「飛影も元気になったことだし、そろそろ帰ろうかな。」
んーっと体を伸ばすと目の前の男に笑みを向ける。
「飛影、本線までゆっくりしてね。あと予選通過おめでとう。遅いか…。」
ふふふと笑う栄子は彼に手を振るとそのまま岐路に足を進める。
「栄子。」
自分を呼び止める声に振り返り、見慣れた顔にあれ?と違和感を覚えるもののそれが何か彼女には分からない。
「おまえ…たいがいにしておけよ。」
赤みがかった瞳が自分を見据え鋭く光る。
「??」
きょとんとする栄子の表情に忌々しそうに舌打ちをする飛影。
俺は寝る。
そういうと気だるそうにソファから立ち上がり再びベットへ移動し始める飛影に、眠気も吹っ飛んだのでは?と首を傾げる栄子。
しかし、それ以上何も言わない彼に、栄子は変なの…と呟きながらもその部屋を後にする。
扉の閉まる音。
再び来る静寂の部屋。
飛影はベットに雑に自身を投げ出し仰向けになりながら息を付く。
「イライラするぜ。」
呟くその言葉と感情に再び疼く右腕の黒龍。
それを押さえ込み彼は静かに瞳を伏せた。