第41話 予選の合間
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「あん時は本気でビビッたぜ?あいつは爆弾女だな、全く。」
温泉の湯に浸かりながらも、岩場に置かれた酒を相手と自分のお猪口に注ぎながら、幽助は先日のここでの出来事を目の前の男-…黄泉に話す。
予選をまだ数日先に控えている幽助は、とりあえず予選を勝った黄泉に祝い酒だ!!と飲む理由を付け温泉に誘った様だ。
「…ふふ、躯らしくて面白い。」
それを一口で飲む黄泉。
「違いねぇ。潔い野郎だ、女にしとくのもったいねぇな…。」
まぁ、もう少し恥じらいも欲しい気もするが…と頭を掻く。
それに、躯が恥らったら気持ち悪いだろ?と、さらっと答える黄泉に、幽助が一気に青くなり聞こえたらころされっぞ…と小さく呟いたとは言うまでもない。
ここは躯の領土だ。
黄泉まで六感は発達していないといえど、どこでどう彼女の耳に入るか分からない。
地獄耳じゃない事を祈ってみる。
「…それにしても-…」
ふいに夜空を見上げた幽助は思い出したように呟く。
「よく戦わなかったな、あいつら。」
予選数日前に夜中に感じた妖気。
殺気の籠ったそれは今にも殺し合いが始まってもおかしくないものだった。
珍しい組み合わせ。
もともと気が合いそうな二人ではないが、珍しい。
「見てみたかったぜ。蔵馬と躯の戦いなんてそう見れねぇのに、よ。」
それなのに、どういったわけかあっさりと解除された彼女達の妖気。
ちぇっ…と残念そうに舌打ちする彼に黄泉は薄く微笑む。
「蔵馬は昔から挑発には乗らん男だ。逆に挑発するのはなかなか…。やれば倍にしてやられるぞ。」
おまえも気をつけることだな…と楽しそうに笑う彼。
「昔の蔵馬…ねぇ。」
「自分に害を与える者に対しては昔から変わらん冷酷さはあるが、どうも最近は…酷く目に余る部分がある。」
岩にもたれ夜空を見上げる。
そう、目に余る。
あの人間の女が要因だろう。
黄泉は薄く笑う。
以前の狐は女に惚れる事など、まして振り回される事などなかった。
いつも自分が優位に立ち、気が向けば寄る女を抱き飽きれば捨ててきた。
愛を囁けば足を開かぬ女も居ないほど、欲しいと思えば全て手にしてきた男。
人間の小娘ごときに手を焼くとは…
合間に見せるのは、不安定でそれでいてどこか苛立った感情。
自分でもどうして良いのか分からないのだろう。
「くく、滑稽だな…。」
まさかここまでとは…と、くすくすと笑う黄泉に、幽助はまたもや口が引きつる。
案の定、彼が再び周りを見回したとはいうまでもない。
「複雑だな。昔の蔵馬であってほしいと思う反面、今のやつも悪くない。」
「でもよぉ、蔵馬はおめぇと会う前に栄子と会ってんだろ?なら今も昔もそう変わんねんじゃねぇの?栄子を大事にしてんだろ、昔から。」
「当時の俺の知る蔵馬からは想像はつかんな。仲間にこんな人間が居たと…聞いていただけだからな。だが、今思えば…よく人間界に行く時は-…」
「…??」
「よく団子屋に連れて行かれ、その後に墓地の側を歩かされた。」
「…なんでだ?」
「決まってるだろう?」
「……。」
「そして、たまにいなくなると見つけるのは桜の木の下だ。」
「あの時はそう深く考えなかったが、今思えばかなり可愛い所があったんだな、蔵馬は。」
そう話す黄泉はさらに楽しそうに笑う。
まるで、犬だな…
幽助はへぇ…と意外そうだ。
しかし…
「……。黄泉、おめぇ…」
改めて幽助は思う。
「なんだ?」
「蔵馬の事本当に好きなんだな。」
「……。」
「あれ、反応なし?」
「…いや。」
くすりと笑みがこぼれる。
蔵馬に裏切られたときの事が今でも鮮明に脳裏に浮かぶ。
『おまえのその性格、いつか命取りになるぞ』
当時は自身の傲慢さと甘さに気付けなかった。
愚かな自分、弱肉強食の魔界ではいつ死んでもおかしくなかったのだ。
今の自分があるのはあの時の制裁があったからこそ…
だが、その反面、酷く蔵馬を憎む自分が居たのも確か…だがらこそ、自分から光を奪った妖怪を生け捕りにし長い年月の間、あいつを待った。
その妖怪を見る度に、愚かな自分を思い出し悔い改めると同時に、抱く憎悪。
蔵馬にそれを見せたときにはさすがのあいつも動揺していた。
しかしそれも一瞬の事…
静かな奴の妖気。
冷たく見据える視線…
否定などしない…と
受け入れていた狐に、逆に俺が虚しかったのを覚えている。
すでに狐は先の事を考え、なぜ俺がこんな真似をしたのかを考えていたようだった。
時には…意味が無いこともある。
もちろん、そうだとしても次の策略につなげさせてはもらったが…。