第40話 第二回魔界統一トーナメント戦開幕
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エリアごとに試合が行われ、エリア数も多く参加人数も多いため、早く試合が終わった所から次の試合が行われていく。
それだけで約二週間から一ヶ月程かかる。
基本勝者が決まらなければ朝から晩まで治療所に釘付け。
早く勝者が決まっても、すぐに次の試合が開催されるか他のエリアの補助に飛ばされる為、休憩もままならない。
躯の治療班ゆえ、本来なら仕事も過度なものではないのだが…
自身の班に余裕があれば一般の治療院にも足を運ぶようになった栄子達だったので(本当なら行く必要はないのだが、悲惨な忙しさを見ているとそうも言ってられない)
なので、疲労は結構なものとなっていた。
そんな中、仕事五日目の今日、栄子は休日をもらう事となる。
治癒の力とは当人の体力や妖力(栄子の場合は霊力だが)が比例する。
疲労の治療はその者の生命すら危うくするのだ。
「ふぁぁ…」
大きな欠伸が出るものの、その開いた口を押さえる事さえ忘れる栄子。
その日、昼過ぎまで寝ていた彼女は軽く化粧をし、自室から出ると少し遅めの昼食をとる為、城のレストランに向かう。
この期間は皆多忙な為、できるだけメイドの手も煩わせたくない。
なので、栄子は自分の部屋での食事は遠慮した。
驥尾も次に待つ本戦、否トーナメント戦の為今は休暇をもらっている。
それでも栄子が休みだと知ると昨夜から自分が食事を運んだり世話をすると言い出すものだからさすがに断った。
「やばい、まだ眠い。」
目を擦り廊下をふらふらと歩く。
五日前の試合前までは、しっかりとは言えないものの、それなりに寝ていた。
夢見が悪くても…だ。
それがここ何日がずっと起きていたのだ。
仮眠があっても知れていた。
よく耐えたと思う…
これほどまで過酷だと思わなかった栄子は一般の治療班のスタッフに同情する。
しかし、それでも元気に動けるスタッフ達はやはり体の作りが根本的に違うのだと思う。
リーダーのルナに「栄子様は私達より疲れやすいのですから無理はしないでくださいね。」と言われたのはやはりそういう事だろう。
温かな日差しが廊下の窓から入り顔に当たる。
(ぽかぽか…だぁ…。)
今にも寝そうな日差し。
しかし、ぼうっとするのも束の間。
「あ…栄子だ。」
後ろから呼ばれる軽快な声。
この声のトーンはあまりよろしくない。
それに一人で居る時に出会いたくなかったと思うものの、既に遅い。
「修羅…君。」
嫌だが、無視すれば後が怖いので、恐る恐る振り返る。
前回は思わず彼の変わりように驚き(顔が変わるくらいの頬の腫れ様)に声をかけてしまったものの、本当ならば警戒ざる得ない人物である。
今でも思い出す。幼なじみが助けてくれた為、結局大事に至らなかったもののあのままだったらどうなっていたのか…。
(しかも、呼び捨て…ですか。)
振り返った先には、にっこりと笑う可愛い笑顔を向ける修羅。
近づいてくる彼に思わず後ずさり距離を空けようとする。
「?…なんで逃げるの?」
きょとんとした様子で首を傾げる彼。
しかし、気にせず距離をつめる空気の読めない少年。
「なんでって…!!」
(誰か来てー!!!!!)
「前会ったとき逃げなかったくせに。顔が戻ると思い出すの?それ馬鹿じゃないの?」
俺なのに変なの。と呟く。
確かにそうかもしれない。
いつもの彼に戻ると一気に警戒したのは事実だ。
(!!…なんで、近づくのよ!!)
後ずさる足がいつの間にか窓辺の壁にぶつかる。
「そんなに怖がらなくていいじゃん?」
すぐ側にくるとじっと顔を見てくる修羅。
目線はほとんど変わらないものの、すこしだけだが栄子が見上げる形になる。
(あれ、こんなにこの子背あったっけ?)
至近距離でじっと顔を覗き込まれ思わず唾を飲み込む。
以前、腕を掴まれた時よりも近い為か改めて彼の方が身長があるのだと知る。
やばい、よけい逃げられない。
「ねぇ…」
じっと顔を見つめたまま呟く。
「な、なに?…というか、近くない?」
怖い。
顔が引きつるのが自分で分かる。
目も一気に覚めてしまった…。
「…栄子って、ただの人間だよね?」
「…へ?」
「うん、やぱどう見ても人間だよな。妖気も感じないし…。」
顎に手を当て首を傾げる修羅の顔が少し離れる。
「……。」
それでわざわざ至近距離で自分を見つめる必要があったのか。
相変わらず心臓に悪い子だ。
離れた彼にほっと息を付く。
「それにやっぱ普通だし。モテそうには見えないし…。」
「……。」
「世代の違いなのかな…。」
(今、さりげなく酷い事言われた気がする。)
そして、うーん…と一人何か考える修羅。
視界に自分が入ってない事に気づくと、彼の前からゆっくりと身を横にずらし脱出する。
彼は危険な少年だ。
関わってはいけない。
そう思いながらも彼に背を向け静かに歩き出した栄子だったが…
「ねぇ…」
再び呼ばれる。
(やっぱ気付くよね…そうだよね!!)
それでも聞こえない振りをしてこの場をやりすごそうかと考えた栄子だったが。
「悪魔や妖怪となんか契約でもしたの?」
「……え?」
思いも寄らぬ言葉に足を止め振り返る。
「契約だよ。契約。」
「契約?」
覚えがなければ契約というものさえ分からない。
それに首を振る。
「……ふうん。そう、なんだ。」
「…?」
「ん、まぁいいや。…あ、栄子、今から昼食?俺もやっとさっき試合終わってさ、一緒に食べようよ!!」
いきなりころっと変わる彼の雰囲気。
犬の様に瞳を輝かせ満面の笑みで微笑む。
「…修羅君もレストラン?」
「うん、俺は毎回レストランだぜ?たまに部屋でもらうけど…、てかそれより前にいう事無いの?」
「残念だったね、また次回がんばろう!!」
「ちがうよ!!!」
「…おめでとう、なのかな?」
別に今彼から試合に『勝った』などとは聞いていない。
彼に負けて帰ってきた…という選択肢はないらしい。
「ん、さんきゅ。」
あっけなくてつまんなかったよ…と目を細め笑う修羅。
数百人の中でたった一人の勝者になった彼。
やはり躯の客は伊達ではない。
(修羅君がこれなら、黄泉さんも予選通るわね、きっと。)
黄泉の試合はこれからだ。
そして-…
「蔵馬の方もそろそろ試合始まるんじゃねぇの?」
父親の事を言わないのはきっと心配ないと息子ながら思っているからだろうか…。
幼いくせに人の心情を読むとはさすがと言うべきか…。
「…うん。」
もうすぐ彼のエリアも試合が始まる。
一日休みなので寝ることも可能だった栄子だったが、幼なじみが心配だった為、モニターで彼の試合を見ようとも思っていたのだ。
「心配?」
そんな栄子の様子に、修羅はくすりと笑い、面白そうに彼女を見る。
「…うん。」
それに素直にこくりと頷く彼女に、修羅は言葉を続ける。
「安心しなよ。仲間内は今の所誰もぶつかっちゃいないし、雷禅の仲間の所もまだかぶってなかったはずだよ?勝つから安心しなって。」
いつもふざけてばかりの修羅。
だがこの言葉ばかりは元気付けられる。
「本当?」
顔を上げる栄子の瞳が大きく見開き、しっかりと修羅を見る。
不安に揺れる中に期待の色が見える瞳。
「あ…あぁ、父さんの連れだ。そう簡単に負けないよ。負けるはずない。」
それに一瞬驚くも、真実を述べる。
修羅でさえ蔵馬の力は知っているのだ、下手に手を出せば自身の身さえ危ないと。
修羅の言葉に栄子の瞳が爛々と輝きだす。
「本当に、本当??」
「…あんたが一番わかってるんじゃないの?」
最近聞いた話だが、彼女は昔蔵馬と暮らしていたと幽助から聞いた修羅。
呆れた様に瞳を向ける修羅に、安心からか、強く口を結ぶ栄子の瞳に涙が滲むものの、こくこくと力強く頷く。
「……。」
「よし…ご飯食べよう!!修羅君!!」
先程の修羅への恐怖はどこへ行ったのか、彼の言葉で一気に安心した彼女は、安心したからなのか嬉しそうに笑うと修羅の腕を掴み引っ張る。
「う、うん…。」
あれ?と首を傾げる修羅。
「修羅君、ありがとう!!」
明るい声に、引っ張られながらも前を見れば、振り返る彼女。
頬を桃色に染め微笑む彼女に再び言葉に詰まる。
(…こいつ…なんて、極端で単純なんだ。)
これは狐も心配するな…と、ぽそりと呟く修羅の声に、何か言った?と振り返る彼女だったが、修羅は別に…と薄く笑い瞳を細めた。