第39話 愚かで愛しい奴
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朝から部屋が騒がしいと思っていた。
自分専用のメイドはこんなに物音を立てて部屋を徘徊しない。
ガラガラと引く台車の音と微かにぶつかる金属音、そして鼻を掠める食事の香りから朝食なのだとは分かる。
新人か?
雇った覚えはないが…
まだ起きていない頭で考えるも、もぞもぞと布団の中で動けば、いつもとは違う声が響く。
「あ、おはようございます!!躯さん!!」
起こしちゃいましたか…と、へへへと笑うここ最近のなじみの声。
「……。」
「…あれ?今動いてたのに。躯さーん、おはようございます!」
「…俺はまだ寝てる。」
なぜここにいるのか…だが、今はそんな事よりも寝たい。手だけ出し、気だるそうに帰れ帰れと振るものの、今朝のこいつはどうやら空気が読めないらしい。
「起きてるでしょ?…ねぇ、一緒に朝食食べてから散歩しませんか?」
かちゃかちゃと食器を並べる音に、香ばしい香りがさらに際立つ。
「…帰れ。昨夜、おまえも遅かっただろうが。」
あれから躯は彼女の事を気にしていた。
泣いて帰ってくるかもしれない…と、期待した気持ちもないわけではなかった。
しかし、あの狐がそうそう簡単に帰すわけがないのも承知。
念の為、使い魔を送り彼女の無事を確認してから眠りに着いた躯。
何があったにせよ、栄子も昨夜はほとんど寝ていないはずだ。
「…躯さん、私を殺そうとしたくせに。」
「……。」
幻聴が聞こえた。
狐が言ったか?…いや、それはありえない、はず。
「なのに、酷い。」
今にも泣きそうな声に、焦って起き上がる躯。
自分のした行動はほんの些細な好奇心からだ、実際できるはずもなく、そこは誤解されても困る。
「あ、あれは…」
狐に言い訳しないとあんなにも強気で言い放した躯の威厳は一体どこへ行ってしまったのか。
柄にもなく目の前で瞳を濡らした彼女に焦る。
「いくらなんでも、酷いです。私が躯さんのドーナツ取ったからって-…殺そうとするんだもん。」
「……。」
「あ…あれ、夢だ!!」
一瞬宙を彷徨った彼女の瞳が、一点で止まりあっ!!と叫んだと思ったらこれだ。
あはは…と笑う彼女に、ほう…と額に青筋の立つ躯。
我ながら柄にも無く動揺してしまった。
こいつには参る…、と思わず自分の眉頭を押さえる。
「最近、夢と現実が混ざってます。」
へへへと笑う栄子に悪意はないのだろうが。
それにしても-…
「…お前から珍しいじゃないか。」
ここへ来た理由など聞かなくても分かる。
また相談するのだろうか…
きっと今までで一番混乱している出来事のはずだ。
「ちょっと気分転換したくって。」
「…そうか。」
目の下に薄っすら見える隈は、寝不足だけのものではなさそうだ、その笑顔ですら空笑いだとすぐ分かる。
狐の事実は相当ショックだったか。
躯は呆れた様に息を付き、仕方ないな…と苦笑しつつベットから降りた。