第38話 弱味
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微かな薔薇の香りに包まれながら
囁く甘い…低い声-…
少し震えているのは気のせいなのだろうか。
この言葉に、この体温に酔いしれてもおかしくない程の心地良さを感じる。
求められたら困るのに…
どうしてよいか分からず怖いのに…
縛られると身動きが取れないと分かっているのに…
「俺が…嫌い?」
どこでそう思うのか。
私が彼を拒んだからか…
蔵馬だから思う。
いつも自身満々のあなたの不安気な顔はそう見れない。
揺れる瞳は一体どちらのものなのか…。
蔵馬が秀一で、秀一が蔵馬で…
始まりはどちらが先立ったのかなんて分からない。
秀一の言葉にゆっくりとだが首を振る。
嫌いなわけがない。
むしろ逆だ…。
「…蔵馬、は?」
少し間をとり探るように瞳を向ける。
同じ人物なのに…。
先程蔵馬を拒み秀一に助けを求めた事を気にしているのだろうか。
「…嫌い、じゃない。」
そうすれば、ふわっとはにかむような笑顔に変わる。
「…嫌いって言わなくていいの?」
「だって、嫌いじゃないもの。」
いくらあんな事があっても嫌いになれない。
嫌いになんてなれるはずがない。
だけど、それ以上は言ってはいけない。
もう軽はずみに言えるわけもない…
受け止めきれない想いなのに矛盾している。
私は自身の弱さゆえ彼を突き放せない。
側にいてほしいから…決めれない。
「……馬鹿正直で、残酷。」
瞳を細め困ったように笑う幼なじみ。
彼の言ったとおりだ。
抱き返せないくせに側に居て欲しいと思う浅ましさ…私は、いつからこんなに弱くなったんだろう。
「甘やかしたのは…俺、だね。」
心情を読んだかのようにそう優しく言う。
そして幼なじみは、触れる位のキスを唇に落とした。
不意打ちだった。
それにぎょっとし、逃げようと身を引くも、彼は微笑を崩さないまま、抱きしめる腕も緩まない。
「覚悟してよ。」
君に決めさすとろくな事にならない…と耳元に唇を寄せながら甘く艶めいた声で囁く。
「しゅ、秀ちゃん!!」
(安心してたらこれはなんだ!?)
「逃げたかったら逃げていいよ。栄子。」
満面の笑みでにっこりと微笑む彼に真っ赤になっていた栄子の顔色が見る見ると青くなっていく。
『栄子、覚えていて…』
狐は一つじゃ満足できない
全部欲しい生き物だから
きっと本気で逃げないと
捕まるよ…
そう幼い私に彼はそう囁いていたのを
今になって思い出す-…