第38話 弱味
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真新しい血の香り。
木の陰でそれの食事が終わるのを待ってようと思っていた修羅だったが-…
やはり納得できない。
「あんた雑食なの?」
もっとも食しているものが人間ならばそうは思わない、だが…
「妖怪が妖怪食うのは…どうかと思うぜ?」
食い物困ってるならわけようか?と呆れた様に言う修羅は、その男に近づく。
それにゆっくりと立ち上がり振り返る男。
長髪の黒髪に切れ長の瞳が少年を見据える。
男の前に転がるのはついさっき男が声をかけ林に誘い込んだ雌の妖怪。
金髪の長い髪に彼女の血がこべりつき、瞳はただ見開いたままで、体は無残にも引きちぎられその場に崩れ落ちていた。
「お楽しみ中かと思ってきてみれば…結構あんたえぐいね。」
俺耐え切れなかったよ…とその妖怪の姿を見て気持ち悪りぃ…と顔を歪ませ口に手をあてる。
戦闘においては沢山の妖怪を葬ってきた修羅ではあるが、こういった事に関してはどうも受け付けない。
先程躯の城で食べたディナーが胃からあがってきそうだ…。
しかし、男は何も言わず口元を拭うと、そのまま修羅から視線を逸らし彼の横を通り過ぎようとする。
「無視?気悪いなぁ…。」
すかさず男の腕を掴む。
「…おまえ、死にたいか?」
男の口から発せられた声は低く少し粘着質なもの。
黒真珠の瞳が修羅の瞳を捕らえる。
「…あんたに俺は殺せないよ。たかがそれ位の妖気で喧嘩売るの?」
「…ほう。」
瞳を細める男に修羅は薄く笑う。
「ねぇ、あんた何者?…あんたから知り合いの人間の臭いがするんだけど。」
躯の城にいる彼女をこの男がどうかできるものではない。
…ならなぜ?
餌になっていないのならなぜこんなに香るのか…
「…あいつの知り合いか。」
「…あいつって?」
ここまで言って惚けてみる。
「栄子だ。」
すんなり出た彼女の名前。
それに心の中で笑う。
「うん、知ってる。…あんたあいつとどういう関係?」
「夫婦だ。」
「……はい?」
「いずれはな。」
細く笑う男に、修羅はどこか頭がいってるのではないかと思わず顔が引きつるが…
「無理じゃないのかな…妖怪と人間だぜ?」
一体どこで出会っているんだ、あの女は。
修羅は頭を傾げたくなる気持ちを押さえ男に問う。
「人種は関係あるか?」
「あるだろ、あいつの方が先に死ぬじゃん。それに-…」
もう一人馬鹿がいた。
「あいつには他に男いるぜ?あきらめたら?」
すっげぇ質の悪い狐が。と忌々しそうに呟く。
「あれに栄子はいかん。」
「そうかな…なんやかんやで好きあってると思うけど。」
「……。」
「人の恋路の邪魔をするやつは馬に蹴られて死ね…だっけ?おまえあの狐にやられるぜ?」
すると男は俯き肩を揺らす。
そして、堪えられなくなったか、辺りに男の笑い声が響く。
ついにおかしくなったか…
きっとストーカーとか言う奴だな、あいつ全然モテそうにはないけれど…と修羅は一人納得をしながら男を呆れた瞳で見る。
「狐は俺を殺せない。」
くくくとさも面白そうに笑う男。
「いやいや、あれ怒らせたらマジきついぜ?逆に殺されるほうがマシだと思えることだってあるぜ、あいつの場合。」
つい先日の罰を思い出し一気に青ざめる。
(俺って優しいのな…)
「俺を殺せばあいつも生きてはいけまい。」
「…はぁ?」
「それほど弱くなっているのだ、あの狐は。」
何を言っているのか…
修羅はさっぽり理解が出来ないものの、彼らが知り合いなのだという事はなんとなく理解できた。
「あいつは俺から逃げるしか、ない。」
そう薄ら笑うとそのまま修羅の手を振り解き、歩みを進める。
そのまま闇に溶け込んで行く男の後姿を静かに見つめる修羅、しかし、それは次第に大きく見開いて行く。
去る男の隣に微かに見えたのは…
黒髪を頭の上に束ね、白い袴をきた少年の後姿。
それがゆっくりと修羅に振り返る。
(やべ…俺、幽霊はあんまり得意じゃないんだけど…。)
少年の瞳は血の様に赤く、そのまま修羅を見据えたまま口が微かに動く-…
「…え?」
しかし、呆気にとられる修羅の前でそれは完全に姿を消し去る。
雨上がりの林の中…
少し涼しい風が修羅の髪を靡かせる
「意味わかんねぇ。」
結局あいつは誰なんだ?
修羅はちぇっと舌打ちすると、帰るか…と呟き踵を返した。