第38話 弱味
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雨が上がる。
雲が流れ青白い月が顔を出す。
その月明かりが下界を照らし、テラスにいる彼女にもそれは注がれる。
彼女の目の前でグラスに注がれていくワイン。
椅子に凭れながらも気だるそうにそれを受け取り一口含む。
「いいのか?…驥尾よ。」
頬杖を付きながらグラスに入ったワインを揺らし見つめる躯。
ゆっくりと視線を上げれば、ワインボトルを持つ驥尾と視線が交わる。
「…意地悪な主ですわ、本当に。」
困ったように苦笑する驥尾はテーブルに置かれたもうひとつのグラスにワインを注ぐ。
それは本来ならばここにもうひとりいたはずの、彼のグラス…だ。
「…付き合ってくれるのか?」
へぇ…と面白そうに見上げる彼女。
「…だめですか?」
「いいや、歓迎だぜ。あいつには逃げられたし、ちょうどいい。」
逃げられたと言う割には嬉しそうな躯に、驥尾は些か眉を寄せる。
それに自分にいいのか?と聞く主に色々つっこみたくなるものの毎度の事だと諦める。
ワインを持ってこい。
夜中にいきなりそう起こされ温かな布団から追い出された驥尾。
そして、自分の主の下へワインを運んだ彼女だったが…
「貴様と酒を飲む気分じゃない。」
開けた扉の先に見えるベランダで、さも不機嫌そうな飛影が目に入る。
そして、そう言われながらも隣では柵にもたれ面白そうに笑みを浮かべる躯の姿。
「……俺はもう寝る。」
「寝れるのか?…飛影よ。そんなに殺気を出していれば血の気の多い妖怪に寝首かかれるぜ?」
我が主の悪い癖だ。
これでもかと彼を煽って行く。
「それとも…やはり気になるか?」
「……。」
驥尾は意味が分からず首を傾げものの、躯の楽しそうな顔と飛影の彼女を見る忌々しい表情…そして、躯と一緒にいるはずの栄子の姿が見当たらない事からなんとなく状況が読めた。
伊達に毎日城でメイドをしているわけではない。
飛影はちっと舌打ちするとベランダから軽く飛び降りて行く。
それを楽しそうに見る躯に、複雑な心境の驥尾。
飛影の気配がなくなると躯は驥尾に振り返り用意してくれ…と楽しそうに笑う。
躯様の飛影贔屓にも困ったものだ。
驥尾は心の中で呟きながら、大きく息を付くのだった。