第37話 決められない選択
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どれくらいの時間がたったんだろうか…
この香りに、この体温に安心してしまうのは真実を知っても何も変わらない。
それどころか、尚更納得をさせられてしまう…
生まれた時から彼は-…蔵馬は側にいて、過去に飛ばされた時もあなたといた。
ずっとずっと私はあなたと共にいたんだ…
「泥…」
彼の肩越しで呟く。
「泥ついちゃうよ、秀ちゃん。」
彼の体温がゆっくりと離れる。
私と彼との間に隙間ができ、翡翠はただ見下ろす。
「…ほら、汚れちゃった。…ごめんね。蔵馬の白装束だったらもっと目立っちゃう所だったね。」
そう笑ってみせる。
「……。」
「えっと…ごめんなさい。まだ…混乱してて-…。」
彼の瞳を直視できなくて、目を伏せながら立ち上がろうとするが、足に力を入れれば先ほど打った膝が激しく痛み思わず顔を顰める。
伸ばされる手。脇に差し込まれるそれに、身が軽くなる。
再び感じる薔薇の香りと体温に顔を上げれば見下ろす翡翠とぶつかる。
至近距離で見つめられ、思わず息を飲むものの、自身の体制に気付き一気に顔が熱を持つ。
「お、下ろして!!!」
脇の下と膝の後ろに回された手。
目のやり場に困るのは身動きが取れないこの体制のせいだ。
抱えるにしてもお姫様だっことは恥ずかしいに決まっている。
「じっとして。骨折れてるかもしれないから。」
私の様子を気にする事無く、膝に視線を向ける。
同じように目で追えば痛々しく腫れあがった膝が目に入り、おもわず顔が引きつる。
(げっ…トーナメントも近いのに…)
「折れてても治る。安心して。」
「……。」
私の心情を読み取った彼は、そう優しく微笑んだ。
それに何も言えなかったのは、彼がいつもと変わらない『秀一の』笑顔だったから…だ。
ぽつり…ぽつり…
頬に生暖かい雨が落ちる
「あ、め…」
空を見上げる。
視界には生い茂る木々達…その隙間から見えるのは真っ暗な空。
その空間で微かに光る雫が幾つも落ちてくる。
そして、それは一気に視界を埋め尽くすほどの雨となり二人を濡らし始めた。