第36話 彼の秘密
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「どうするんだ…、飛影。」
月明かりだけが差し込む暗い部屋。
躯はソファに座りながら開け放されたベランダに目を向ける。
ベランダには、柵にもたれ夜風を浴びながら外を眺める飛影の姿が目に入る。
「邪眼は、開かんのか?」
あの後、逃げるように走る彼女を追いかけた狐。
青ざめ驚いていた彼女と、それを見て動揺していた狐。
無理もないが、栄子の様子が気になる。
「……。」
「見たくもない、か…。」
飛影の心情を察すると分からなくもない。
ふふふと笑う躯に飛影は不機嫌そうにゆっくりと振り返り、赤み掛かった瞳が少し伏せる。
「…見たところで、結果は目にみえる」
「ほう…というと?」
「……。」
再び外に視線を戻す飛影。
「あいつは、もう迷わない。」
先日の蔵馬が脳裏に浮かぶ。
彼女に拒絶されてもかまわないと自身の思いを貫こうとしていた狐。
今思えばあれは自分に対しても手を出すなという事だったのかもしれない。
別の散らつく感情を抑えるかのように瞳を閉じる飛影。
「……。」
なるほど…と躯は苦笑する。
再び赤い瞳を開き、雲に隠れ行く月を見上げる。
狐の苦しみは自分の比ではない。
飛影はそう自分自身に言い聞かす…。
なんども狐の手をすり抜けてきた娘。
どんなに欲しくても諦めなければと…どれだけの時を苦しみ想い続けた事か。
本当に失くす意味を知った狐は、彼女が生きている事を知ったことで自身の中の何かを捨て決意した。
それを引き換えに大きくなってしまったのは元より持つ妖怪故の性…歪んだそれ。
崩壊しそうな想いを人間の秀一はずっと押さえ込んでいたというのに、だ。
だが、それを理解していても、飛影の脳裏を過去の淡く甘い記憶が巡る。
彼女との日々は甘くも苦く、今までに経験したことのない程、苦しくも心地良いものだった。
今は、邪魔なだけの想い。
思い出さえ真っ黒な嫉妬と憎しみに塗り替えられそうになる…
「飛影よ。」
躯の笑みを含んだ低い声が飛影のすぐ隣から響く。
同じようにベランダに出て、風に当たりにきたのだろうか、彼女は柵にもたれた飛影を面白そうに眺める。
「…なんだ。」
「今なら付き合ってやってもいいぞ?…さっきから血がうずいて、な。」
おまえも、だろ?と妖艶な笑みを浮かべる。
「……。ふん、今はそんな気分じゃない。」
「そうか?…残念だ。」
ふふふと笑う躯を、怪訝そうに飛影は見る。
何が面白いのか…。
いまいちこの女の笑い所が理解できない。
「…腑抜けめ。」
ぽそりと小さく呟く彼女を飛影は思わず眉を寄せ、ふてぶてしく睨むのだった。