第35話 愛情の形
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「話は…それだけか?」
狐は、目の前で顎に手を当て考える躯に目を向ける。
「あぁ、それが聞きたかっただけだ。…多勢を犠牲にしても一人をとる。おまえらしい。」
彼女は目を伏せ、俺もそうするかもな…と笑う。そして…
「しかし、コエンマに同情するぜ。禁書を持ち出された上に、指令も放置ときた。奴を捕まえる気がないならそう言ってやれよ、見てる俺は気の毒だったぜ?」
と息を付き両手でやれやれとポーズをとる。
「…信用していないわけじゃない。だが、こればかりは霊界の対処が目に見える。」
「コエンマには霊界の長としての責任が課せられている以上、狐の私情を酌んでやる事はできないと?」
「…内容が内容だ。鴉は遅かれ早かれ罰せられる。」
「まぁ、あいつの立場上ほうって置く事は人間界に悪影響しかないからな。だが、言わずとも他の霊界探偵がそのうち派遣されるぜ?内密にしたいと言ってもいつまでもそうはいかないからな…。」
「…俺の手元には禁書がある。」
金色の瞳が細まり、形の良い唇が弧を描く。
「……。」
「霊界は俺達が動かない事に警戒はしている。霊界が動き出すのはまだ先だ…。」
「……。」
「少しでも動きは遅れてもらった方が助かる。色々、な。」
「禁書を持ち出したのは、あいつが死んだと思い込んだからではなかったのか?」
狐の瞳が躯を冷ややかに見つめる。
彼女が死んだと思ったのは目の前の躯がした細工に踊らされたせいだ。
飛影の邪眼と自身の妖気を過信し過ぎたため起こった過失。
しかし、元より狐は禁書に期待はしてなかった…だけど縋る気持ちはあったのは事実。
「…霊界が禁書を極秘資料にする理由などしれている。そして、禁術の使用の罪は元より霊界が決めたものだ。」
霊界が罪を裁く基準が分かるか?と、冷ややかに微笑む狐。
「…霊界にとって危険分子を排除、か。」
なるほど…と息を付く。
ならば禁術の使用はもっとも重い罪だと理解できる。
「他に渡ると厄介な物、いわば霊界さえ恐れる禁書。裏を返せば…」
「霊界を破滅させれると?」
「そうだ。」
コエンマの正義感と誠実さはかっている、だが
昔から今も続く霊界の基準はきっとこれからも変わらない。
コエンマも気の毒だ。
躯はやれやれと息を付く。
「…おまえ…黒いな。」
この狐は霊界が下手な動きをすれば禁書で脅迫するらしい。
この狐にしてみれば優先するものがはっきりしているだけだが。
本当はこういったやり方は好きではないんだが…と呟く狐は嫌に楽しそうだ。
そんな事をすれば霊界は手出しできなくとも、確実にこの狐は第一級犯罪者の指名手配犯となるだろう。しかも、禁術の使用は死後でさえ重い罪が付きまとう。
それはきっと変わらない…。
「使うつもりはない。最後の切り札…だ。」
たとえ犯罪だとしても
彼女の命を繋げるためなら
それでいい
「…俺はその男を殺したくて仕方ないがな。」
躯は、残念だぜ…と苦笑し息を付いた。
雲が流れる。
銀色から赤に変わる髪…
月の光はその変身の最中さえ美しく魅せてくれる。
人ではない美しい生き物は人の姿をしても品格もその誇り高き美しさも朽ちる事はない
人の姿に戻った狐は再び躯に視線を向ける。
「魔界の空気は蔵馬の姿の方が馴染む。」
「ずっと蔵馬でいればいいものを。…戻れなくなるのが怖いのか?」
意地悪そうに笑う躯に狐は苦笑する。
月が顔を出す。
月明かりが全てを照らし出す。
甘い香り…
なぜそれに気付かなかったのか…
なによりも、それの気配。
見開く翡翠に、躯が不思議そうに後ろを振り返る
月夜に照らされたのは昔から知る愛しい顔
風に吹かれ靡くのは子供の頃はよく櫛で樋であげた長い髪
その表情は、驚きと戸惑いを含み、見開くその瞳は激しく揺れ動く
「…栄子…」
狐の擦れた声が響いた…。