第35話 愛情の形
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月夜の当たる庭では緑がさわさわと風に揺れ輝く。
「…おまえとは一度殺ってみたかったんだ。」
風が躯の髪を揺らす。
彼女は不敵に微笑み、目の前に平然と佇む狐に視線を向け軽く構える。
「なに、殺しはしない。半殺しくらいにしといてやるよ。」
と、楽しそうに薄ら笑う躯に金色の瞳はただただ彼女を見つめる。
「…ひとつ聞こう。」
月明かりに反射するのは鋭く光る金。
「なぜ栄子を殺そうとした?」
物に含ませた蔵馬の妖気は殺気に反応する。
躯は構えた体制をゆっくりと戻す。
そして、少し視線を落とすものの、くすりと笑い再び狐を見る。
「…おまえにはつくづく感心する。あのピアスやブレスにしろ。」
慈悲さえない妖気。
下手な妖怪ならば一瞬で灰だ。
「……。」
「それを聞いてどうする。そうだったら俺を殺せばいい。おまえはずっとそうやってきた。」
栄子の記憶の中の狐はいつだってそうだった…。
泣いて許しを請おうがこの狐は生かさない。
「…いいわけなんかしないぜ?」
月が彼女の顔を照らす。
聞く必要があるのか?見たことが事実だろ…と言葉を続けると、妖しさを残した瞳は細くなり爛々とした高揚する殺意すら見え隠れする。
この世界ではそれが全て。
しかし、どうも狐は微動だにしない。
戦う気がないのか。
いや納得していないだけか…
それに、呆れた様に盛大なため息を付く躯。
理由など、知れている。
おまえもあったはずだ。
妖怪ならば、きっと…
「…殺してみたかった。」
前髪を気だるそうに掻き揚げる躯。
交わる視線。
光る躯の視線は未だに妖しさを残す。
「無性に試したくなった。それだけだ。」
淡々と悪気もなく話す躯に、狐の瞳に激しい殺意が滲む反面、哀しげな色が混ざる。
そんな狐に視線を向けたまま微笑む。
「だが、きっと出来ない。」
狐の妖気に跳ね返されといえど、手を伸ばした瞬間脳裏に浮かんだのは彼女の笑顔。
ころころ変わる表情は見て飽きることもなく素直なそれはとても自分勝手でわかりやすい。
そして、思い出す。
少し引っ掻くだけで詰まれる人の生。
彼女と共にいれば見えなくなったものが見えるような気がした。
瞳の裏に映るそれは自分から放棄してきたもの。いつからか見ることをやめ、闇に閉ざしたもの達。
殺せるわけがない…
だけど殺してみたかった…
矛盾するこの想いは妖怪故の性だろうか。
「お前達と出会い、変わった俺自身嫌いではなかった。だが、それとはまた違う。」
「……。」
「すんなり俺の中へ入ってくる。どこにでもいる人間に違いないのに、なぜこうも気に入ったのか、笑えるぜ。」
普通の人間なのにな…と苦笑する躯に、狐の瞳が微かに揺れる。
「安心しろ、いくら気に入っても俺はノーマルだ。手は出さんさ、最後までは。」
「……死に急ぐか、躯。」
「…気が合わんな。お前の質問のせいで俺は一気にその気が失せたぜ。どうせなら戦った後に聞いて欲しいもんだ。」
「殺してしまっては聞けんだろう?」
金色の瞳が細くなり、口の端が上がる。
それに一瞬あっけにとられる躯だったが、へぇ…と面白そうに口が弧を描く。
「俺も、おまえに話がある。」
わざわざおまえの方から出向くとは、飛影に伝える事もなかったな、と苦笑した。