序章
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夏が終わる。
まだ残暑厳しい季節ではあったが深夜を越せば涼しく過ごせる日も増えてきた。
夜風を通すために几帳などは取り払い、御簾だけ下ろした部屋。
涼しい夜風が長く美しい黒髪を揺らし、ささやかな月明かりが少女の纏う淡い桃色の着物を照らす。
『………娘。』
少女は声のした庭へ顔を向け、目を細める。
『娘、俺はいく。おまえも来い。』
銀髪の長い髪を持つ美しい妖怪は妖しくそしてどこか冷ややかに少女を見つめながら言葉を紡ぐ。
妖狐である。
『どうせここにいても死ぬのなら、俺がおまえを殺してやる。』
銀髪の妖怪は自身の手を差し出す。
いつからいたのだろうか。
気配など微塵も感じなかった。
この涼しい夜風につられて来たのだろうか。
この妖怪に少女は恐怖も驚きも感じない。
むしろ、こんな気持ちの良い夜に会っている為か、反対におだやかな気持ちにさえなる。
じっと月を見上げた。
毎度の事だと思いながら。
『私を食べたいの?』
金色に輝く月を見上げながら少女は言葉を紡ぐ。
『そうだ。』
『あなたはそっち側の妖怪ではないのでしょう?』
『そうだ。』
少女がゆっくりと振り向くとそこには優美に微笑む妖怪の姿。
その笑みと言葉の違いに少女は頭を傾げる。
『変な狐さん。』
クスクスと笑う少女。
そんな少女に冗談ではないと詰め寄る狐。
だが触れる事はない。
少女は少しの間笑ったあと、妖怪の頬に手を伸ばす。
妖怪は、表情は変わらないものの、わずかだが少女の手が頬に触れた瞬間、目を細めた。
『いいわよ。』
少女からは先ほどの笑みは消えていた。
真っ直ぐな瞳を妖狐の瞳に映す。
『でも、綺麗に食べてちょうだいね。』
少女の瞳から雫が落ちる。
コツンッ
地面に落ちた涙の石はころころと転がり、しばらく経つと地面に濡れた後だけ残し消えた。
それは不完全な涙の跡…。
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