第34話 妖精の湖
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「爆睡だぁ…珍し過ぎる。」
側に行き彼の寝顔をまじまじと見つめる。
飛影の寝顔など、彼と魔界で過ごしたあの頃もそう見れるものではなかった。
常に緊迫した魔界の中、彼が自分より先に寝ることなどまずなかったのだ。
そう改めてあの頃を思い出し、彼に感謝の気持ちで一杯になる。
しかし、それとこれとはまた別の話だ。
「飛影、起きて。帰ろう?」
肩を揺するものの起きる気配がない。
おかしい…
本当なら自分がここにいるだけで敏感な彼ならどんなに眠くても起きる筈だ。
どれだけ疲れているのか。
ふと視線が落ちれば彼の右腕。
真っ黒な刺青のようなものは手の甲から腕にかけてとぐろの様に巻かれている。
いつも包帯を巻いていたその場所。
「これ…」
思わずそれに触れようと手を伸ばすが…
「栄子様、触ってはいけません。」
後ろから聞きなれた声が響き、振り返る。
そこには-…
「あれ?驥尾、ちゃん?」
いつものメイド服とは違う、動きやすそうなラフな服。
それは中国の衣装にも少し似た…
「それ、…戦闘服?」
躯の城で何度か見た戦士達の服装と、少なからず似ている。
目をまるまるとする栄子に驥尾は苦笑する。
「はい、飛影様の代わりに、ここの監視役です。」
そうだった。
確かに躯は驥尾の事を飛影の代わりだと言っていた。
それは一体どういう意味なのか。
それにこの飛影の状態。
「飛影様は、昨晩この泉に近づいた不法な者達を追い払いこうなったのです。意外と手ごわかったようですね。」
かわいそうに…と飛影を見つめる驥尾の瞳は切なげに揺れる。
(……驥尾、ちゃん?)
「飛影様は、今はちょっとやそっとじゃ起きません。ご安心なさってください、今この時間帯は躯様の結界も効いていますのでそうそう邪悪な者は入ってこれませんから。」
「…うん。でも驥尾ちゃんが飛影の代わりって大丈夫なの?」
「問題ございません。」
にっこりと微笑む驥尾。
こんなにも可愛い女の子が飛影の代わりが勤まるのか。心配だ。
「よかったら私も…」
「栄子様がいらっしゃったら私のお仕事が増えてしまいますわ。飛影様とお帰りください。」
…毒。
心配をして毒を吐かれるほどダメージを食らう事はない。
でもこれは彼女の優しさのだと分かっている。
飛影を見下ろす。
すやすやと気持ち良さそうに寝ている彼。
…これは背負えという事か。
よいしょっと彼の腕を肩に掛け背負う栄子だったが、思ったよりも重い体にその場に崩れる。
「大丈夫ですか?栄子様。…あと、ひとつ、言っておきますが、その刺青にはあまり触れませぬように。」
先程、思わず触れそうになったその刺青。
「それは飛影様の力の源ともいえる黒龍。邪悪な魔界の黒炎の龍でございます。飛影様だからこそそれは扱えますが意識のない今下手に触れば龍が何をするか分かりません。」
今は疲れきって黒龍も主人と同じようにお休み中だとは思いますが…と苦笑する。
(…いつも包帯してるのは怪我じゃなかったんだわ。)
「意外と重い。」
自分と少しばかりしか身長も変わらないというのに、そして細身だと思っていたのにこの重さにこの筋肉。
見た目とは違うそれに改めて男の子なのだと感じる。
自分の腕に霊力を集め、腕の強化を図ってみる。
少しは効いたみたいで、なんとか彼の腕を肩にかけ立ち上がる。
「だ、大丈夫ですか?腕がぷるぷるしていますけど…」
少し、いやとても心配気に栄子と飛影を見る驥尾。
「大丈夫、…頑張る。」
あの距離ならなんとかなる。…だろう。
背後ではらはらする驥尾を他所に栄子は懇親の力を込め飛影を肩に乗せ、岐路に向かうのだった。