第34話 妖精の湖
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-妖精の泉-
それはとても珍しい光景だった。
(…寝てる…。)
森の中にある小さくも美しい泉。
そのすぐ側にある大きな木に腰掛け腕を組みながらも無防備に寝ている彼の姿。
*********
それはつい先ほどの事だった。
「栄子、飛影を呼んできてくれ」
躯の部屋でソファに腰掛け寛ぎながら本を読みお菓子を食べている栄子に、部屋の主は自身の机の上に置かれた本から目を離さず言葉だけを投げる。
いつもと違う躯の様子から少なからずその本に集中しているのだと悟り、珍しい事もあるものだと彼女の読む本を覗き込もうとするものの、「お子様にはまだ早いよ」と艶妖に細まる視線を向けられ囁かれるものだから、反射的に飛びのいた。
それを見て相変わらず楽しそうに笑う躯。
「あいつは今頃、すぐ側の泉にいる。」
「泉?」
彼女から思わず離れた栄子だったが、再びおそるおそる近寄る。
初耳だ。
すぐ側にそんな泉などあっただろうか。
「ちょうど今の時期だけ現れる泉でな、そうだなちょうどおととい位から出たな。妖精が繁殖する為に一時的に現れる泉だ。綺麗なもんだぜ?二三日で消えちまうけどな。」
「妖精の泉…。」
文献で読んだ。
妖精は希少価値の高い生き物故、狙われやすい為、繁殖期は安全と種族保存の為にも短期間でそれを終えなければいけない。
それは妖精の泉と言われる聖なる泉で行われると…
しかし、そんな種の生命保存、繁殖場所の大事な泉が毎年同じ場所とはどういう事か。
文献には人には知られね森の奥と、しかも場所もその都度変わると書いてあったはずだ。
そう思い首を傾げる彼女の思考を読み取ったのか、机に置かれた本から視線を上げる躯はなかなか勤勉なようだと関心の目を向けつつ口を開く。
「飛影は妖精の泉の監視役だ。」
「監視役?」
「俺とここらの妖精は昔に契約していてな。彼らの繁殖期は聖域を守っている。」
「契約…。」
ずっと昔。
狐と過ごした時に、何度か見た事のある妖精。
あの頃もそうそうお目にかかれるものではなかったが、今の魔界ではさらに見る事は出来ないほど彼らの数は減っている。
そう文献にもそう記されている。
『絶滅危惧種』だと…。
しかし、契約とはどういった契約なのか。
あの悪戯好きだと聞く妖精と魔界の勢力の一つにも成りかねない程の力の持つ彼女。
契約をするという事はお互いのメリットあっての事ではないのだろうか。
特にこの躯が善意だけでそんな契約をするのだろうか…
(…きまぐれだし、ありえるかも。)
「そういうわけだ、ここから少し南にいった日の当たる暖かい場所だ。…言っておくが、妖精に会っても驚いたり興味は示すなよ。あいつらは悪戯好きだからな。」
『ついていけばおまえは迷う』
以前、彼はそう言った。
「その顔だと分かっているようだな。思ったより本好きで助かる。…それとも以前悪戯でもされたか?」(番外編参照)
知ってか知らずか、少し意地悪そうに笑う彼女に、記憶を見たくせに、と唇を尖らせる。
「意地悪は慣れてるから多少の悪戯なんて減っちゃらですよーだ!」
ベーと舌を出す栄子にくすくすと形の良い唇で笑う躯。
「そういうな、…だが、決して唆されても着いていくなよ。今のお前なら間違いなく迷う。」
「……。」
「迷うことは悪い事じゃないが、選択を間違ってもらっちゃ困るからな。妖精は人の心に敏感で正直だ、本人が見たくもない知らない心の奥底までむき出しに見せてくる。」
「そうなんだ…。」
「おっと、長話になったな。飛影の代わりに驥尾も向かわせた。お前はただ飛影を連れて帰って来い。」
「??…どういう意味?」
「あいつはきっと一人では戻って来れない。そういう意味だ。」
困った奴だ…と呆れた様に呟く躯は、再び本に視線を戻す。
どういう意味だと思いながらも、そんな躯にそれ以上聞けないでいた。
(本に集中するとか、本当に珍しいものね。)
会えば分かるか…
そう納得し、その泉に足を運ぶことにした。