第34話 妖精の湖
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それは気持ちの良い朝。
廊下の窓から温かい朝日が差し込み大理石の通路はきらきらと光る。
「…あれ?」
廊下を歩く栄子は、すれ違った人物に思わず振り返る。
栄子が振り返るとちょうど数歩進んだ先で彼は不機嫌そうに振り返った。
「…なに?」
明らかに機嫌が悪い。
低い声色と、眉間に皺を寄せる彼の表情と漂う重いオーラ。
それはいつもふざけてケラケラと楽しそうに笑う彼からは想像付かない程、沈んでいた。
その理由は見て瞭然…
「どうしたの、修羅君。その頬…。」
見るからに腫れている修羅の両方の頬。
真っ赤に膨れ上がったそれは、まるでおたふく風邪の様だ。
いや、風邪で片付けるには些か難しい程、異様な腫れようだ。
「……。言うな。」
「言うなって、それ言ってくださいって言ってるようなものだけど、風邪?」
明らかに目に付くそれを気にするなと言われるほうが難しい。
「本当は部屋から出たくなかったんだけど、こうしないと治らないから…。」
「??…意味わかんない。散歩したら治るの?」
魔界の風邪は不思議だ。
「いや、これはお仕置きで…。」
ぼそぼそと小さく呟く彼。
お仕置き…最近流行っているのだろうか。
誰にお仕置きをされているのか…
それにしてもこんな明らかに病人を徘徊させる等許せないお仕置きだ。冗談では済まされない。
「そんなお仕置き誰が言ったの?だめだよ、そんなに頬腫れてるんだから部屋で薬飲んで寝てなきゃ。」
「…いや、これは-…」
「あ、私が治してあげようか!!免疫力向上させてその憎っくき菌をやっつけよう!!」
「これは病気じゃなくて…」
彼は口の中まで腫れているようでよく聞こえなければ、話すのも辛そうだ。
その時だった。
「栄子、修羅は風邪じゃない。」
ふいに後ろから聞こえたのは、低い呆れ声。
振り返った先に居たのは、苦笑する黄泉の姿。
それに「げっ!!」と顔を歪ませる修羅。
「修羅はいたずらが過ぎて、ちょっと罰を与えられてるんだ。」
と視線を修羅に移す。
「罰って…誰がですか?何のために?」
黄泉の言い方で罰を与えたのは彼ではないのだと分かるものの、自分の息子のこのような姿を良しとしている事に、些か首を傾げたくなる。
それにしても悪質な罰ではないだろうか…。
「安心しろ、修羅のこの頬の腫れが罰だ。毎朝、この時間帯の朝日を浴びなければこの腫れは引かんのだ。」
俺としては寝坊常習犯の修羅が早起きで助かる…と笑い、そのまま続ける。
「これはな、栄子、魔界の植物の花粉でこうなったんだ。修羅はその花粉にやられただけなんだ。病気でもなんでもない、自業自得だ。」
「…そう、なんですか。」
自業自得とは一体何をしたのだろうか。
黄泉は誰になぜされたのかは言う気がないようで、こちらとしても互いが納得してるならそれ以上は聞かない方が良いのだろうかと口を紡ぐ。
(この時間帯は、皆が起床しだす時間だよね…可哀想…。)
それにしても…
口元に指を当て彼女の瞳が宙を彷徨う。
そのような花粉聞いたことがなければ、この周りにそんな植物があった記憶もない。
悩む栄子を他所に黄泉は修羅に薄く笑う。
「それくらいで済んでよかったな、修羅。」
本当なら殺されていたぞ?と囁く彼はなぜか楽しそうだ。
修羅は心底面白くなさそうに「くそ狐…」と忌々しそうに呟いた。
「魔界って、色んなものあるんですね。本当すごい。」
「そうだな。基本魔界すべてが弱肉強食の世界だ。妖怪だけでなく、植物も強いからな。中には妖怪を食べる花もいるぞ。」
「…私、食べられかけました。」
思い出し思わず顔を顰める。
幻覚作用で人を誘いテリトリーに入ったら、さぁいただきます!!という食人花。
あの時は、間一髪で秀一が助けてくれたので食べられずに済んだが…。
(…ん…?…あれ?)
なにかおかしい。
口元に手を当て視線を落とす。
「幻覚でも見せられたか。よく生きていたな。」
「あ、はい。秀ちゃんが助けて、くれて…あれ?」
やはり何かおかしい。
「…どうした?」
なにか違和感を感じるこの感覚…
「…いえ。」
魔界に来てから何度か感じる違和感…。
はっきりしないものの、それを深く考えるのを自然にやめる自分がいる。
だからこれもそう…。
きっと、気のせいだ…