第33.5話(妖狐編零)
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鼻を掠めるその香りは、術師特有の香。
彼女の女性特有の大量の血の香りに混じり、ほかの場所から流れるそれに気が付かなかったのは大きな汚点。
だから、気が付いた時には遅かった…
うつろな瞳にもうろうとした意識の中、栄子の耳に微かに入る秀忠の声と、聞いた事もない男の声。
そして、少し冷えた風が肌を掠める。
さわさわと涼しげな夜風が吹く森の奥-…
「…早く…殺せ…」
着物が腹から赤く染まっていく。
ふらつく足取りに、腹を抑えたまま秀忠はその場に座り込むように崩れ落ちる。
満月の光を背に受け、銀の髪は輝き、金色の瞳は影を落とし、男を見下ろす。
そして、そのままその隣で気を失っている彼女に視線を移す。
白く細い指から流れる血液-…
彼女に纏わり付く香りに生気のない顔色。
今までの満月の夜に何度同じことが起こっていたのか。
浅い傷口に違和感を感じながらもそれを気にすることはなかった狐は己の失態を悔いていた。
聞いたことがあった。
半妖とは皮肉なものだと。
妖怪でも人間でもない彼らは、その生き方がひどく曖昧で難しい。
だから、あの光景を見た瞬間-…
人と妖怪の性の狭間で生きる彼の哀れな行動は狐の目には厭らしく嫌悪を抱く行動そのものだったのだ。
「殺せばいい。私を…。」
「……。」
妖怪の性に逆らえず、しかし人でありたいと願う哀れな男。
愛しい者を愛したいだけなのに、愛すれば愛するほど、彼女自身を欲してしまう異常な愛。
「殺せ…。」
彼の口元から香る彼女の血の香り。
金色の瞳を伏せる狐の腕が静かに上にあがる。
風が吹く…
また…
会える。
彼女が無意識の中…流した涙は誰も掬う事はなかった。