第33.5話(妖狐編零)
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「いつかえってくるんですか、お頭。」
夜中、屋敷の全ての者が寝静まった満月の夜。
「そう、急くな。もう少ししたら帰る。」
「ですが、お頭…。」
屋根の上で部下の妖怪と話す銀髪の妖怪・蔵馬はいつものように月を見上げ、目を細める。
「満月は困るな、気が高まって抑えるのが大変だ…」
「はぁ…抑える必要性がどこにおありで?いつもの様に暴れたらいいじゃないですか?…俺なんか、さっきからむずむずして…この屋敷の人間少し殺っちまいたい勢いなんですけど…。」
とへらへら笑う部下だったが、瞬間背筋に凍るような妖気を感じ、目の前の妖怪を見て、ひっ!!と顔までも凍りつく。
「おまえ、俺がわざわざ抑えている理由がわからんのなら、ここで死ね。」
蔵馬の背後に蠢く植物に、口を押さえふるふると首を振る妖怪。
蔵馬は息を付くとその場に寝転がる。
満月の夜はいつもこうして屋根で寝る。
栄子の側にいると殺しはしないものの気が高まり欲を抑えきれない妖狐と化してしまう為だ。
(傷つけるわけにはいかない…)
しかしだ…
先日、秀忠に頬に口付けられ照れていた彼女の顔が脳裏から離れない。
いつも側にいるのに見たこともない、少女の顔。
異様に腹が立つ。
「お頭ぁ…まだ怒ってるんですか?」
「まだいたのか、さっさと帰れ。死にたいか。」
悩むなど俺らしくない。
鋭く睨まれた妖怪は、再び顔を青ざめ大人しく帰っていく。
妖怪の気配がなくなると蔵馬は目を瞑る。
その時だった-…
血の香り。
それは知っている甘い血の香り。
部屋には布団に入ったまま上半身を起こす栄子と、側に座る侍女の姿。
狐となり彼女の側に来ると自分を膝に乗せる。
怪我をしている様子はないものの、顔が青ざめているのが分かる。
「栄子!!!」
声と共に扉と勢い良く開けたのは息を切らせた秀忠。
それと一緒にかすかに香る慣れない香り。
栄子のきょとんとした姿に、あれ?と首を傾げる。
「秀忠様まで…何事ですか。このような夜更けに…。」
と、じろりと狐を睨む侍女。
(俺の事もか…)
「いや、なにやら嫌な予感がしてな…」
おかしいな…と頭を掻く秀忠。
(そういえばこいつも妖怪の母を持つのだったな…血の臭いには敏感か。)
「なにもございません。早く部屋にお戻りください!!」
「いや、何かはある!なにがあった?」
それでもしつこくそれは聞く。
それに栄子はなぜか赤くなり俯く。
見上げたそこに映る頬を赤らめた彼女の顔に狐は悟った。
「…殿方には分からぬことです。それ以上言わせるおつもりですか。」
「え……」
すると侍女はふうっと息を付き、
「栄子様は、子供ではなくなったのでございます。秀忠様。」
「!!??」
「わかりましたら、早く外に出てくださいませ。」
「あ、あぁ。済まぬ、栄子。気が利かなくて。」
真っ赤になる秀忠に、恥ずかしそうに首を振る栄子。
それを見つめる狐…