第33話 深層心理
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「今回はぜってぇ優勝してやんぜ!!蛍子にも約束してきたしな!!」
それは魔界にある名温泉の一つ、血の国湯温泉。
幽助は温泉に浸かりながら岩場に置かれた酒を取りそのまま仰ぐ。
「…おまえは本当によく飲むな。」
幽助同様、岩にもたれ湯に浸かる飛影は呆れた視線を目の前の男に送る。
「おめぇも飲めって。」
「いらん。」
幽助は酒の入ったビンを飛影に投げる。
飛影はそれを片手に受で取るが、いらんといっているだろ。と眉を寄せ彼を睨むものの、いいから飲め、と幽助は強引だ。
もう若干酒が回っているのだろうか。
魔界の酒は人間界のものよりはるかに強い。
「イラついてる時は酒と煙草が一番だぜ?」
「……。」
「飲んでみろって。『魔・鬼殺』結構効くぜ?」
口角の端を上げ笑う幽助。
彼なりに気を遣っているのか…、己の機嫌が悪いのを少なからず分かっているようだ。
飛影は息を付き、酒の瓶からそれを仰ぐように飲む。
その時だった。
「良い飲みっぷりじゃないか。俺も混ぜてくれよ。」
響く透き通るような声色。
良く知っているそれに、まさか…と驚き顔を上げる幽助に、再び呆れた様に大きな息を吐き目を伏せる飛影。
白い湯気の中、脱衣所の方から近づく足音と明らかに男性ではないシルエット。
「まじかよ…。」
「…とんだ、女だ。」
しばらくの静寂の間、その白い中から出てきた彼女。
そこから出てきた彼女はにやりと笑う。
「期待に添えず、すまんな。」
体に巻かれた白いタオル。
タオルから覗く肩からは半身が機械で出来ているのだろうと連想出来るものの、それでも隠された体は女性特有の線を描く。
「…何しにきた。」
視線を合わす事無く呟く飛影に、躯は面白そうに笑う。
「おまえには俺の体は一度見せたろう?そんなに構えるな。」
しかも今は隠してる。と付け足す躯に、飛影の隣に居た幽助は目を見開き彼と彼女を交互に何度も見る。
それに耐えかね、眉を寄せる飛影に躯はくつくつと笑う。
「そう、機嫌を悪くするな。事実だ。」
「飛影、やっぱおめぇ…!!」
何を興奮してるのか頬を赤らめた幽助が声を高く上げる。
「…今死ぬか?」
目を伏せた低い声が響く。
それは躯に言ったのか、幽助に言ったのか…
それとも二人に送った言葉か。
躯は微笑みながら温泉まで来るとゆっくりと浸かる。
機械の部分は大丈夫なのか。
一瞬そう思う幽助だったが、平然と湯に浸かる彼女に心配ないのだと理解する。
そして酒をくれと言う彼女に、酒の瓶を放り投げる飛影。
些かその乱暴な放り方に躯は苦笑する。
「そう怒るな、やりにくい。」
「貴様が誤解を招くような事を言うからだろ。」
見たいと望んだ覚えも言った覚えもない。
時雨との戦い後治療室の水槽越しに見た彼女の裸。
自分の記憶を見た彼女が、「私の心にも触れてくれ」と己に見せた彼女の過去、記憶、そしてこれが自分の誇りだと、体を見せただけのこと。
半身機械でできた体。
それを誇りだと言う彼女に、彼女の芯の強さと内面の美しさを感じる半面、酷く哀れだと思う自分もいた。
そうでしか生きてこれなかった躯。
呪う事で強くなった彼女はその分沢山の物を犠牲にした。
女で在りながら女で居ることを放棄した彼女の生い立ち。
みせられた過去達は、どう考えても幸せなものではなかった。
「これはうまいな。雷禅の酒か。」
「さすが、やっぱ知ってる奴は知ってるねぇ。くすねてきたんだ。まだまだあるぜ?」
「ほう。」
瓶の口からごくりごくりと喉を鳴らしながら飲む彼女はそこらの男性より男らしい。
性別を間違ったんじゃないだろうか…、と思う幽助だが、いくらなんでもそれを言うにはまだ酒が足りない。
「で、何にしにきた。」
用がなければいちいち来るような彼女ではないため、どうせいつもの暇つぶしだろうと思うものの念のため聞いてみる。
「狐は…いないのか。」
「蔵馬なら、そこらへんで月でも見てるんじゃないか?」
あいつに用か、珍しいな…と、幽助は岩にもたれ夜空を見上げる。
「月?…なかなか風流じゃないか。」
意外だな…と呟く彼女の口の端が微かに上がり、昔の癖はそうそう抜けんか…と言葉を続け目を瞑る。
その言葉に揺れるのは赤い瞳…。
躯は薄く瞳を開けるとそれに微笑む。
「良い、傾向だ。」
「……。」
「俺も、お前も…な。」
面白そうに、そして少し嬉しそうに微笑みこちらを見る躯に飛影は眉を顰める。
「狐に会うか?」
「…さぁな。」
「なら伝言がある。伝えといてれ。」
「…貴様、その耳は飾りか。」
相変わらず人の話を聞かない女だ…と、不機嫌そうに瞳を細める飛影。
そんな自分を見て、くすくすと笑う躯に、どうも嫌な予感がする。
そう、もたもたしてられん…
そう呟く彼女に、飛影は意味が分からず目を細めた。