第33話 深層心理
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「どうかしたの?…驥尾ちゃん、何かあったの?」
いつもと違う様子に不安になる。
彼女に何かあったのではないかと次は思考がそちらに傾く。
少なからず最近は共に過ごす時間も多く、プライベートの話もする位の仲だ。
「いえ…、最近物騒なのでちょっと様子を見に…。はい。」
なにやら歯切れ悪く話す彼女に首を傾げながらも、心配してくれていたのだと素直に受け取ってしまう栄子。
「そうなんだ。ありがとう。物騒なんだ、最近。知らなかったわ。」
「いえ、大会前になると変な妖怪も多くて。気をつけてくださいね。…ところで体調は如何ですか?どこか痛い所はございませんか?」
なぜ体を心配するのか。
いまいち彼女の心配所が分からないものの、本気で聞く彼女の気迫に押されふるふると首を振る。
それにほっと胸を撫で下ろし、「無理はしないでくださいね」と微笑む彼女に違和感さえ感じる。
仕事の話だろうか。
心配されるほど無理はしていないし、どちらかといえば好きにさせてもらっている方だ。
「驥尾ちゃん…なんか…」
言いかけた言葉が止まったのは、彼女が気遣って側まで来てくれた時に香る石鹸の香りに思考が移ってしまったからだ。
「あれ、驥尾ちゃん、お風呂入ったの?」
ふんわり香る石鹸の香りに首を傾げる。良く見れば髪も湿っており、寝不足なのか、目の下には隈もある。
「…実は…ですねぇ…」
困ったように俯き顔を赤らめる驥尾に、さっきまで見ていた夢が思考を掠める。
「え…、ま、まさか…」
こちらでは本番?
というか誰ですか!!
「躯様のお部屋で頂きました。」
「そうなん、て……えぇぇぇぇぇええ!!!!」
思わず真っ青になりベットの奥まで後ずさる。
(む、躯さんが!!?驥尾ちゃんと??)
「ほ、本当に?」
こくり頬を赤らめ頷く彼女に、自分の先ほどの夢とは比べ物にならない位のショックを受ける。
「躯さまったら…すごいんです。私、ずっと寝させてもらえなくて…今までずっと…」
「へ、へぇ…す、すごいんだぁ。」
想像させないで!!
「はい、呼ばれて行ったらとても強引に…」
「ご、強引…それは驥尾ちゃん、望んでなかったんじゃ…」
「はじめはそうだったんですけど、そのうちだんだんと良くなってきてしまって、気づけばどっぷりと…気付けばぐちゃぐちゃでし-…」
「聞きたくない!!もう聞きたくない!!!!」
刺激が強すぎる。
鼻血が出てしまう!!
「チェスの相手をずっとさせられておりました。」
「え…ちぇす…。」
「はい、お仕置きだと意味の分からない事を言われ、ずっと捕まっておりました。」
一気にげっそりとした表情に変わり、肩を落とす。
そして、あっけに取られる栄子に視線を移すとさも楽しそうに、びっくりしたでしょう?と笑う。
「全く…栄子様は本当にからかいがいのある方ですわ…。」
「……。」
きっとこれはお仕置き返しだ。
この世界でも自分の位置は決まってきているようだ。
いいかげん慣れてしまったけれど。
情けなくため息を付く栄子。
それを見つめる驥尾の瞳が微かに揺らめく。
先ほどの躯の部屋で見た栄子の姿が彼女の脳裏に浮かぶ。
チェスの休憩にと風呂に入ることを強引に勧められた驥尾は(まだまだ躯は驥尾に勝負をさせる気で)しぶしぶ入り上がった先に見たモニターに映るベットで寝ている栄子の姿。
それは、何かに謝り続け苦しそうに涙を流す痛々しいそんな姿だった。
躯はまた始まったか…と息を付いたが、それを始めて見た驥尾は衝撃だったのだ。
たまに魘され起きることもあるらしいが、今日はなかなか目が覚めない。
しだいに、栄子のそれが治まり呼吸も落ち着き、安らかな表情から心地の良い夢を見出したのだと思うものの、驥尾の心は落ち着かなかった。気付けば動く自分が居た。
自分の主人は躯だ。
それは重々承知しているものの、今は栄子の側にいたかった。たとえ躯のチェスを放棄しようと…。
以前の躯なら自身の命令に反する者なら、殺すか良くても罰を与えるくらいはしたかもしれない。
だが深々と頭を下げ躯の部屋から出る驥尾が背に感じたのは、自分達には軽はずみには見せない…我が主らしくない優しい視線だった。
あれはきっと間違いではないだろう。