第33話 深層心理
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薔薇の香りが鼻を掠める。
瞳を開けば熱に浮かされた翡翠と視線がぶつかり、彼の長い指が髪を掬い、赤い癖のある髪がさらさらと肌の上を滑る。
首筋に落ちる唇の熱さに眩暈がし、二人の鼓動が重なり合う。
甘い声で優しく名を呼ばれれば、落ちてくる口付けにゆっくりと瞳を閉じた。
「だ-…だめ-!!」
叫びながら起きること等今までなかった。
ベットの上で飛び起きた栄子は、慌てて周りを見渡す。
ばくばくと音の鳴る心臓。
彼女は自分の置かれた状況を改めて把握すると大きく安堵の息を吐いた。
なんて寝起きに悪いものを。
真っ赤な顔を両手で挟み、夢とはいえ羞恥に耐える。
鮮明に残る肌の感触に熱さ。
知らないくせにやけにリアルだったそれにさらに頬が熱を持つ。
「…死ぬかと思った…。」
なぜあんな夢を見たのか。
夢は深層心理だと誰かに聞いたことがある。
ならば実はこれは自分の望んでいることなのだろうか。
そうだとしてもなんと破廉恥な思考だ。
栄子はその感覚を振り払うかのように頭を振る。
「どのような夢だったのですか?」
心配気な声が降る。
「それはもう…お互い裸で-…て、え?」
聞こえた声に素直に受け答えしてしまい、まぁ!!と驚く声と共に驚き顔を上げる栄子。
目の前には椅子に座りこちらを見て頬を赤らめる驥尾の姿。
「き、驥尾ちゃん…いつからそこに…。」
驥尾の赤らめた顔に自分は今一体何を発言してしまったのかを思い出し一気に恥ずかしくなってくる。
(こんな恥ずかしい朝は二度度ない…。)
「ずっといましたよ。栄子様が飛び起きた時から、ひとりでぶつぶつ呟いてましたのでいつ声をおかけして良いかと見計らっていました。」
そうにっこり笑う驥尾に、さらに茹蛸状態になっていく栄子。
「にしても…お相手は、ひょっとして例の方ですか?ご友人の方でしょう?」
真っ赤になる栄子が面白いのか、さっきまで赤くなっていた驥尾に余裕の笑みが見える。
「もう、やめて驥尾ちゃん。」
ただでさえショックなのに、見られていただなんて。恥ずかしくて死にそうだ。
俯き頭を押さえる。
もう一度眠りたい。
「ふふ、困りますね。」
「本当に…。」
困る。
夢の中で彼を受け入れていた自分。
現実は色んな事を考え四苦八苦しているというのに、だ…。
「夢は責任も、言葉も何もいりませんものね。」
切なげに微笑む彼女にまだ熱の冷めない赤い顔で苦笑して返す。
その通りだ。
後の事を気にする必要もなければ、自分がどんな行動に出ようと…所詮夢だ。
そういえば…
少し落ち着いた栄子は気付く。
壁にかかる時計を見ればまだ早朝。
外はまだ薄っすらと暗さを残す。
ふと驥尾に視線を向ける。
なぜこんな朝から彼女がいるのだろうか。
いくらメイドでも、自分専属と言えおかしい…。
そんな栄子の思考を読み取ったのか、驥尾が申し訳なさそうに眉を寄せ、深々と頭を下げる。
「申し訳ございません。勝手に部屋に入ってしまいまして。」
「う、うん。」
続きの言葉を待つ。
しかし頭を下げたままの驥尾の口からは何も出ない。
おかしい。