第3話 現の夢
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満月の綺麗な、とても静かな夜。
虫の鳴き声が少しする。
栄子は一人で縁側に座り、夜空を見上げていた。
『秀忠様が亡くなられたというのに泣きもしない!本当に妖ではないのか!』
『本当に秀忠様は殺されたのでは?恐ろしい…妖の娘』
屋敷の者達の言葉は、栄子の傷付いている心をさらに抉る。
(私がいたから彼は死んでしまったのかもしれない…私さえいなければ、あの優しい人は死ななかったのかもしれない。)
秀忠を失った悲しみと孤独感。
そして自分に対する嫌悪感。
栄子は泣けなかった。
瞳にも生気を感じさせない。
まるで心がない人形のようであった。
「娘、一人で何をしている?」
何度日が昇り夜が訪れたのか。
気付けばそれは夜で、いつもの様に月を見上げていた。
銀色の長い髪がなびく。
切れ長の金色の瞳。
「…あなたは?」
かすれた声。
どれだけ声を出していなかったのか。
「…わからぬか?」
銀髪の青年は怪しく瞳を細めた。
「妖怪は人を食べないの?」
栄子は何度めかの訪問をする銀髪の妖狐にそう問いかけた。
そう彼はあの狐であった。
栄子がこの屋敷に連れられる時に前の屋敷に置いてきた狐。
「喰うやつもいる…。俺は基本食べる方の妖怪ではない。」
「…いなり寿司とか?あぶらあげとかは食べる?」
「いなり寿司?あぶらあげ?なんだそれは。」
妖狐はたまに遊びに来る。
狐の恩返しのつもりなのだろうか…
以前手当てをしたから?
寂しい私を見かねて話相手になってくれているのだろうか。
そんな事はないだろう。
狐は恩を感じないと聞いたことがある。
それに…
誰がいてくれても、彼じゃないなら、意味がない。
栄子は妖狐と話しながらも、そんな事を考える。
いつの間にか秀忠は栄子にとってなくてならない存在となっていた。
それが死んでから気づくなど、人間とは本当に馬鹿だ。
栄子は自嘲気味に笑う。
栄子と妖狐が雑談する様を、侍女は部屋の隙間からみていた。