第32話 不可欠な人
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日も暮れ、魔界の海が赤く色づく頃…
「俺は断ったぜ。」
魔界の海辺で息を切らせ仰向けに寝転ぶ幽助は、少し離れた所で浜辺に剣を突き刺し座り込む飛影にそう言う。
「まぁ、戦う理由にはもってこいでちょっと考えはしたけどな。」
にししと笑う彼に、飛影はやれやれと息を付く。
「しかし、あいつがそこまでするなんてな。」
ぼたんが幽助にも依頼したコエンマからの指令。
『蔵馬の確保』
しかし、幽助はさらさら受ける気などなく蔵馬の場所を知っていようと友人を売る気等なかった…まして、蔵馬のことだ。
なにか問題を抱えているのだと心配した。結局、魔界で当人と飛影からも事情を聞き、納得をしたのだが。
楽しそうに孤を描く彼。
「…何が面白い?」
「いや、あいつがどこまで栄子に自分をさらけ出してんのかなって。」
以前、彼の新築祝い時にも彼の行動に驚かされたのにも関わらず、次は霊界の極秘資料ともいえる禁書の窃盗。
あの冷静なあいつがな…と、何やら新鮮で笑ってしまう幽助。
「……。」
さらけだせていたのなら、逆にあんなにも苦しまないだろう。
飛影は頭を掻く。
「言うのかな…蔵馬のやつ。」
「さぁな。」
正体を明かさなくてもあいつならうまくやる。
やつなら彼女を丸め込む事など容易いだろう。
「…蔵馬のやつ、隠す気ねぇ気がする。」
ぽそりと呟く幽助。
彼は応接室での狐の様子を思い出す。
黄泉を止め様ともせずただ彼女の答えを待っていたように見えた。
「……。」
「どう思う、飛影。」
「…興味がないな。」
「嘘こけ。」
「……。」
あの後、躯に呼び出され言われた事が飛影の脳裏によぎる。
『…そういうわけだ。おまえにもチャンスはあるって事だな。』
『蔵馬が殺した?…だと。』
彼女に害を与える者ならともかく、彼女の想い人までも手にかけた。
あの蔵馬が。
『おいおい、そこはそう重要じゃないんだが…。』
なのに、…あいつは惹かれた。
本来なら憎むべき相手。
『…恋なんて理屈じゃないというだろ?好きになってしまったものは仕方ない…。』
『……。』
『話は戻るが、きっと栄子は蔵馬を受け入れない。いや…受け入れられない、か。』
『…そんな事、わからんだろ。恋人を殺した相手を好きになる位だ…受け入れるかどうかなんてそれこそ理屈じゃない。』
『…おまえがもっともらしいから困るな。』
ふふふと笑う躯に飛影はチッと舌打ちをする。
『飛影よ…俺はあいつが傷つく顔をこれ以上見たくないんだ。』
『……。』
『秀一といればいつかばれる。種族や寿命が違う云々ではない。』
人間だと思っていた幼なじみの正体。
それだけでも衝撃を受けるだろうに…
なのに、真実はそれ以上酷なもの…
「…飛影。俺さ-…」
むくりと起き上がり飛影を見るとそのまま言葉を続ける幽助。
「俺、たまに無性に蛍子を傷つけたくなるんだ。妖怪の血のせいなんかなって思う。」
「……。」
「妖怪ってのは人間と少し愛し方が違うのかもしれねぇ。昔はこんな感情生まれなかったのに…。あいつが自分より早く死ぬってのは分かってるんだ、でも死ぬときは俺の手で葬ってやりたい。俺があいつを死なせたい…そう思うんだ。」
「……。」
「おかしいんかな?俺…。」
心配そうに瞳を揺らし飛影を見る。
こんな事人に相談できねぇし…と呟く。
「…それだけ、独占したいんだろ。人も妖怪も変わらん。…おまえは蛍子が死んだらどうする?」
きっとそういう事だ。
もっともらしい事しか出てこないものの、相手を独占したいと思うのは誰にでもある欲。
「わかんねぇ…でも、今みたいに戦ってられねぇ。きっと…。」
「それが答えだろ。戦いはおまえの生き甲斐だ。でも蛍子はそれ以上…それだけの事だ。殺したいわけでも、傷つけたいわけじゃない、きっと…」
「…きっと?」
置いていかれるもどかしさ。
先に死を迎え自分を忘れる哀しさと裏切り。
そして、そんな相手に少しでも自分を残したいと思うが故に、自分を刻み付ける。
愛しい者の全てを見たい欲と、己の全てを受け入れて欲しい叶うはずもない想い。
「まぁ、妖怪だからちょっと表現がハードなのかもしれんな。」
「なんだ、それ。」
答えになってねぇよ…と顔を顰めるものの、彼女がいなければ今の自分はいないのだと改めて理解したのか、少し表情が明るくなる。
そして、もういっちょやるか!!と幽助は飛び上がる。
現金なやつだなと、飛影は苦笑しながらもやれやれと息を付いた。
どんなに境遇が同じでも、幽助と蔵馬は違う。
栄子がもし、狐を選ぶのであれば受け入れなければいけないことが多すぎる。
(なんで俺があいつの心配をするんだ…。)
ちっと舌打ちをする飛影に、幽助は首を傾げ「相談だったらら乗るぜ?」と笑った。