第32話 不可欠な人
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ずっと一緒だったあなたと恋人になるという事は今までの関係では入れないという事…
好きだけどそこまで踏み出す勇気がない。
絶対に失くしたくない人だからこそ、関係を変えられない。
今まで楽しかったでしょ?
幸せだったでしょ?
それは私の独りよがりだったのかもしれないけれど、それでも私の目から見たあなたは少なからず微笑んでいた。
きっとあなたは私の気持ちを分かっている。
嫌いなわけがない…
好きだけど、それよりも大事な人。
分かってほしい。
自信があったんだ。
今までどんな事も、どんな時も最終的には助けてくれて甘やかしてくれていたから。
だから、私がどんな答えを出そうと、きっとそれを仕方ないなと…受け入れてくれると。
なんで君がショックを受けるのか。
残酷なのは君の方だとなぜわからないのか…
「なんで…て…」
意味が分からないのか、考えてる余裕すらないのか、ただ瞳を揺らす彼女。
その頬に触れると、ビクリと肩を揺らす彼女に怯えているのだと理解する。
泣きそうな瞳を狐に向ける。
「答えは必要ないから。」
どこかで期待をしていたのだと、その浅はかな考えに笑ってしまう。
「必要…ない?」
意味が分からないのは栄子の方だった。
あれだけ悩んでいたにも関わらず、向き合うのが怖く関係がこじれる事を心配していた彼女。
返事が必要でないとは、一体どういう意味なのか。
彼女の不安気に揺れる瞳。
潤んだそれに狐は瞳を細める。
「…それは今のままでいいって事、じゃないんだよね…?」
安易な思考。
それは違うのだと理解していてもそれを望む彼女は聞かずにはいられない。
栄子の頬に触れたまま、くすくすと笑う狐。
「…何、笑ってるのよ?」
こんな時になぜ笑うのか。
人がこんなにも真剣に聞いているというのに、もしかするとこれは彼の悪戯なのだろうか。
「いや、栄子が面白くて。」
「もしかして、秀ちゃん。私の事からかって-…」
「さっきも言ったけど-…」
彼の言葉が栄子の言葉を遮る。
頬に触れた指が唇を掠める。
驚き見上げたそこに移るのは熱の籠る翡翠の瞳。
「俺を受け入れられないなら、君から離れる。」
時間が止まる。
「二度と会わない。」
足元から崩れていきそうな感覚。
「…そう言ったら君は何て答える?」
栄子の瞳を見据える意志の強い翡翠は、どこか哀しげに揺れる。