第31話 リング
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静かな夜更けにさわさわと草木が揺れる。
生暖かい風が肌を滑り、血の香りが鼻を掠める。
丘の上で仰向けに寝そべる彼は自身の心を落ち着かせるかのようにその懐かしい風を肌に感じ目を瞑る。
この世界こそが自分の故郷、それは人間として生きていても変わらない事実。
氷の様な冷めた自分になったのはいつからだったか。
昔過ぎて思い出せない。
きっと長い年月が自分をそう変化させた。
なのに、思い馳せる記憶の片隅は魔界での暖かな物。
移り行く思考の中、近づく気配に気付かない振りをするものの、それは無駄に終わる。
「おまえがあんなに動揺するのを見たのはいつぶりだろうな…。」
低い声が風に乗る。
起き上がらず瞳だけを薄く開ける秀一。
「…あれは、おまえが以前から探していた娘だろ。」
背後から姿を現し面白そうに話す黄泉に、視線だけを向ける。
「…だったらどうした。」
「いや、きっとそうだろうと思っただけだ。おまえのあの娘を見る瞳がいやに優しいから、な。」
「……。」
目の見えぬ黄泉だからこそ分かる事。
その瞳から光を奪ったのは昔の自分。それを悔やむことはないが、それを恨む所か、そのおかげで見えぬ物が見えるようになったのだと…感謝をしている黄泉に人間の心が時に痛む。
「俺が言った事を恨んでいるのか?」
「いや。」
「なら、なぜ出て行った。」
「……。」
「…苛ついたか。あの娘に。」
黄泉の言葉に、視線だけを向ける。
感情の起伏を理解する以上に彼の第六感は優れている。
「おまえがあんな風に感情を剥き出しにするとはな…。自分は気の遠くなる程の年月を想い苦しんだのを、涙ひとつで片付けられた気でもしたのか?」
「…黄泉。」
「忘れていたにも関わらず、思い出せばあたかも自分は悲劇のヒロイン気取り。軽い想いに嫌気でもさしたか?…おまえは本当に優しくなったな、感心す-…」
瞬間、黄泉の喉元に当てられたのは彼の背後から伸びてきた妖気が含まれた尖った木の枝。
「死にたいか。黄泉。」
起き上がった秀一は、凍る様な冷たい瞳を目の前の男に向ける。
「……蔵馬、腕が上がったな…。」
私が気付かなかったとは…と黄泉は嬉しそうに笑い、手を上げるとその木の枝はシュルシュルと音を立て下がっていく。
「二度はない。」
言葉には気をつけろ。と金色の瞳で彼を睨む。
黄泉はそれにくすりと笑い、わかったよ…と苦笑する。
「久々に会ってみればお前がおまえらしくなかったんで、驚いたよ。それでつい多弁になってしまった。」
そして、許せ…と、一言付け加えると、背を向けゆっくりと岐路に向かう。
しかし、それが止まる。
「…そうだ、蔵馬。さっきは俺が言わないと思ったのか。…それとも隠す気がなかったのか?」
「……。」
「……。どっちでも良かったのか。まぁ、おまえなら隠し通せるだろうが…。」
「…本当によくしゃべるな。」
呆れた様に目を細める。
「おまえの行動がいやに珍しくて、な。」
レアなおまえがおもしろい…と笑う黄泉に、秀一はやれやれと息を付き、再び寝そべった。