第30話 彼の名前
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-人間界-
あるアパレル社の事務所の一室にはそこの社長と思われるまだ40才ばかりの男性と、従業員だと思われる女性がいた。
男は目の前の机に置かれた「退職願」に顔を顰め、肘を付きながら両手を目の前で組む。
「…本気、なのか…」
それでも信じられないとばかりに顔を上げ、そこに立つ女性を見上げる。
「はい、今までありがとうございます。社長。」
「…急すぎる。どうしてだ?理由を聞いてもいいか?」
「実家に帰ることになったんです。」
「実家?君の地元はここだと以前聞いたが…」
「えぇ、こちらではここが初めての地なので。間違いではないです。」
「…海外か?」
初耳だぞ?とばかりに目を見開く。
「…そうです、ね。」
ふふふと笑う彼女に男ははぁ…と額を押さえる。
「浅野君もいないのに、君さえもいなくなったら売り上げは落ちるな。」
「社長は引抜きがお上手だから大丈夫です。」
「よく言うよ…。」
やめる時は本当に皆勝手なんだから…と男はため息を付く。
「…実家に帰ってどうするんだ?結婚でもするのかい?」
「いいえ…」
微笑む彼女。
目を細め遠くを見る瞳はさらに遠くを見る。
「知人に会わなければいけないので…。」
「はやり、結婚か!!」
「違います!!」
すぐに結婚に繋げるこの男はどうしたものか…
中原は心の中で呆れながらも、それでもこの世界では長い間世話になった人。
感謝の気持ちもあれば寂しいと思う感情も沸く。
「長い間、ありがとうございました。」
約10年程の間。
それは長い年月の中のほんの一部に過ぎない。
「…幸せに、な。」
瞳を潤ます社長に、つっこみを入れたい気持ちを押さえ静かに頭を下げる。
遊びはここまで。
本来の仕事に戻るか…
中原は頭を下げた先で微笑んだ。