第30話 彼の名前
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しばらくの静寂の中、それを破ったのは-…
「蔵馬に…会いたいか?」
室内に響く黄泉の低い声。
「え…」
「おい、黄泉…!」
親子揃って何やってんだ!と思う幽助だが、それを彼女の前で言えない。
どうしたものか…と向けた視線の先には黄泉と栄子に無言のまま翡翠の瞳を向ける秀一の姿。
一番困る彼が、どうして何も言わないのか。
先ほどの一瞬の動揺が嘘のようにただ静かに彼らに視線を向けている。
「…彼を知っているの?」
「昔一緒に盗賊をしていた。」
「!!?」
「今より500年ほど前の話だ。」
目を見開き驚く栄子はそのまま震える手を口元に当てる。
まさか彼の知り合いと出会う等と思いもしなかった栄子。
どこかで生きてくれさえ居ればいい…
そう願い思っていた。
ただそれだけだったのに…
「彼は…今…」
「元気だ。相変わらず、な。」
その言葉に、胸の奥から熱い物が込み上げる。
(今も…元気なんだ…)
ぎゅっと胸元の服を掴み、俯く。
床にコロコロと音を立て転がる氷泪石…
気付けば瞳から流れる洪水の様な涙。
ぼろぼろとそれは溢れ、床に涙の石を撒き散らせて行く。
「や、やだな…私…」
初対面の人達もいる為、焦ってそれを袖で拭う。
その時だった…
ガタン-…
ベランダに視線を移す。
それは彼がもたれた柵から離れる音であった。
そこには眉を寄せ翡翠の瞳を揺らす彼の姿。
その瞳はしっかりと彼女に向けられていた。
「秀、ちゃん?」
「……。」
彼は視線を逸らし目を伏せると、無言のまま彼女の横を通り過ぎる。
微かに香る彼の香りに目を細める。
(同じ香り…)
「どこ、いくの?」
栄子は振り返り彼の背に問いかけるも、止まらない足はそのまま扉から出て行く。
「秀ちゃん…。」
ぽそりと呟く彼女。
黄泉は息を付き、躯は頬杖を付く。
「氷女、俺始めて見た。」
修羅は初目にかかる妖怪に嬉しそうに笑うものの、そういえば人間だった…と自分でつっこみ、ならなぜだ?とまたも首を傾げる。
そして飛影はただ彼女を見つめる。
赤い瞳を細め、床に落ちたそれの痕に視線をやると静かに瞳を閉じた。