第29話 集う者
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よく考えた…
もっと早く気付くべきだった。
よくよく考えた、結果-…
「やっぱりおかしい!!」
枕を抱えベットの上で胡坐を掻き顔を歪ませたまま首を傾げる栄子の脳裏には先日の出来事がぐるぐると回っていた。
あれから少なからず考える時間はあった彼女。
同じ所に滞在しているにも関わらずあの一件から彼に出会うこともなかった為か、それが栄子の思考を冷静にしていくのだった。
「栄子様、バスタオル替えときました…のでって…どうかしたんですか?」
バスルームから出てきた驥尾は、目の前で難しそうな顔で何やら考え込んでいる部屋の主を見て首を傾げる。
「あ…、ありがとう、驥尾ちゃん。」
「どういたしまして、仕事ですから。…また、悩んでらしたのですか?」
笑顔で返す驥尾だが、先日一緒に夕食を食べた時に話した話を思い出す。
触り程度にしか聞いてないものだが、どこでもある恋愛話。
ずっと友人と思っていた彼からの告白…
よくあるパターンのひとつ。
驥尾は、一度お付き合いしてみたら?という提案もしてみたのだが…
「悩むっていうか…やっぱりおかしいの。」
「はぁ…」
「だってね、ずっと避けられてたんだよ?それがいきなりだよ?きっとあの間に何かあったんだ!!」
彼に告白された後は正直それ所ではなかったため、思考がその事だけに飛んでいたが実際よく考えるととてもおかしい。
それに関しては初耳だった驥尾は、仕事の途中ではあるものの、これも仕事の一環だと、側にある椅子に腰掛け耳を傾ける。
「ずっと音信不通だったんだよ?それがいきなり…。絶対おかしい。」
「…元々、なんで避けられていたのですか?心当たりはおありで?」
「あ…えと、私の無神経で、かな?」
あの時の出来事はさすがに言えない。
中原には相談できたものの、この無垢そうでまだまだ若い驥尾には刺激が強そうだ。
「あら。要はただの喧嘩みたいなものですか?それなら別におかしくないですよ。一人になって始めてわかった気持ちかもしれないですよ?」
「そんなのあるかなぁ…。」
(秀ちゃんに限って…)
「彼の気持ちは彼にしかわかりません。いくら栄子様が考えた所で答えはでませんわ。」
ふふふと笑う彼女がいやに大人びて見えるのは彼女の言っていることがもっともだからか。
若いのにしっかりしている。
「…なら、仮にそうだとしてもね…」
そうもう一つある。
それも考えた…
「はい。」
「今までずっとずっと家族みたいに育ってたんだよ?それに恋愛感情って沸くのかな…、一時的な感情で言っただけな気がする、秀ちゃん。」
「……。」
「彼の彼女ってすごく美人だったし、彼も彼ですごくモテてたし!!…わざわざ、私を好きになる理由なんてないの!!……それに-…」
栄子の顔に影が落ち、言葉が止まる。
「…それに?」
「…ううん。なんでも…ない…。」
首を振り笑う。
先日、驥尾に言われた一言があってから、頭を巡る言葉…
『一度付き合ってみればいいのでは?』
付き合うという事は
今までの関係ではいられないという事
そして、別れたら確実に終わる-…
それがどれだけ悲しいことか…
「…栄子様は今までどのように殿方とお付き合いしてきたのですか?」
「どのように…って。」
それはもちろん好きになって付き合ったのだが…
「深く考えてしまい迷うのは、その方が栄子様にとってとても大切な方だからではないのですか?」
「……。」
「関係が親密になればなるほど、崩壊したときには元の関係には戻りにくい。失くしたくないのです。きっと。…失う位なら友人のままでいたいのかもしれませんね、栄子様は…。」
心境を話してはいないのに、確信をつく驥尾の言葉に栄子は目を見開く。
驥尾は心の中が読めるのだろうか…
本気で栄子はそう思った。
「失うのを前提に考えるあたりご自分に自信がないのですね。…でもね、栄子様。」
「はい、驥尾ちゃん…。」
素直に返事をする栄子に驥尾はふふふと笑う。
「相手の方が思いを告げられた時点で、もう以前とは違うのですよ?」
「……。」
「それはおわかりですか?」
切なそうに微笑む驥尾に栄子は何か言おうと口を開きかえるものの、それは言葉を発さないまま静かに閉ざされる。
わかってるのだ…
以前と違う事位。
しかし、誰かに言われると改めてそうなのだと思ってしまう。
それでも-…
どこかであれは夢だったと
「栄子様?」
「…ありがとう、驥尾ちゃん。はっきり言ってくれて。」
翡翠の真剣な瞳が、自分を欲するあの熱い瞳すら夢であればいいのに。
向き合う事がこんなにも、怖いのだ…。