第3話 現の夢
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夢はいつも目が覚めると忘れてしまう。
それが夢…。
あれは、変な夢だった。
とても長く、どこか懐かしい…
それでいて、とても悲しい夢だった…。
でも…
目覚めるとまた忘れてしまうだろう。
いつもの様に…
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運良く落ちた場所は、右大臣の敷地内であった。
庭で倒れている少女は見たこともない着物に身を包んでいた。
まだ12、13才の少女。
「栄子、そんなに走っては転けるぞ?」
この屋敷の右大臣の嫡男である秀忠は、桃色の着物を身に纏った少女に声をかける。
少女は庭で蝶々を追いかけている。
「おい、そんなにお転婆では嫁にはいけんぞ。」
「いいもの。私には秀ちゃんがいるもん!」
栄子は聞き捨てならないと言ったかのように頬を膨らませ秀忠を睨む。
「秀ちゃんとやらにはもう会えん。いいかげん諦めたらどうだ?」
「会えるもん!帰るもん!」
少女は少年の元までいくと、少年の胸をぽかぽかと叩く。
「…直すところが一杯だな、おまえは。」
秀忠はそう言うと優しく頭を撫でた。
「妖じゃ…その者は妖じゃ。」
道端にいる占い師に栄子は指をさされる。
「何を言うか。無礼な。栄子、行くぞ。」
栄子は秀忠に手を引かれる。
「栄子、気にするな。…そなたの涙は美しい、涙が一瞬石になるのはそなたが天からの使いだからだよ。」
秀忠は優しく微笑み栄子の頭を撫でた。
天から舞い降りた少女。それは京で噂になっていた。
天の使いだと言うものもいれば、妖怪だ、半妖だと言う者もいた。
栄子は不思議だった。
こちらに来てから起こった現象。
涙が一瞬、石に変わる。
周りの様々な反応に少女は最初戸惑った。
だがこの優しい手があるのなら、
周りにどう思われていようとかまわない。
そう思えてきていた。
ある昼下がり、縁側で栄子は狐を膝に乗せ優しく頭を撫でる。
狐の腹や足には沢山の包帯が巻かれている。
「よく懐いたものだな。」
庭に目を向けると、稽古着を着た秀忠が、やっと終わったとぼやきながら歩いてくる姿があった。
栄子の隣に腰を降ろす。
「傷はどうだ?」
秀忠は栄子の手にある無数の引っ掻き傷に目をやる。
手は引っ掻き傷で済んではいるが、腕には狐に噛まれた痕もある。
着物のため腕までは見えないが包帯が巻かれているはずだ。
「だいぶ元気にはなってきたし、もうすぐ包帯も外して大丈夫だと思うわ。」
栄子は狐の事を聞かれてると思っている様だ。
優しい手付きで狐の頭を撫でる。
数週間程前、近くにある森の茂みに血だらけで倒れていた金色の狐。
たまたま通りかかったのは栄子と侍女達が数名。
花を摘みにいく予定が、緊急の大惨事。
栄子はそれから屋敷に狐を持って帰ると甲斐甲斐しく看病しているというもの。
初めは警戒心の強い狐に引っ掛かれたり噛みつかれたりした栄子だったが、必死の看病が伝わったのか狐は徐々におとなしくなっていき、ついには狐自身から栄子の膝に乗って寝るほど懐くようになってしまっていた。
「すごいものだな、お前の両親はさぞかし心優しくお前を育てたのだな。」
その言葉にぐっと栄子の胸の奥が詰まる。
(パパ、ママ…)
栄子の一気に沈む表情を見て秀忠は口を紡ぐ。
「…狐さんも、群れからはぐれて一人ぼっちだもの。」
狐の顔を覗き込み、ぽそりとつぶやく少女。
狐は顔を上げると、少女の頬を舐める。
「栄子…すまん。」
「大丈夫よ、だってちゃんと帰るもの!私も狐さんも、ね!?」
栄子は少し潤んだ瞳をごまかすかのように笑った。