第28話 鈍い心
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「まさか、躯さんと飛影が知り合いなんて思いもしなかったわ。」
栄子の翳した両手から出る青い光が飛影の腕を覆う。
「しかも、上司と部下だったなんて…」
ぶつぶつと言いながら飛影の腕の治療に専念する彼女。
彼は椅子に座り怪我した腕をテーブルの上に投げ出した状態で、窓から外を見ながら息を付く。
別に部下なわけじゃない…そう思いながら。
「しかも、秀ちゃんまで連れてくるなんて…びっくりだわ。」
「……。」
どうやら躯がそう説明したらしい。
一体躯が何を考えてるのかが飛影には全く分からない。
狐が自分で真実を話すのが当たり前だというのは分かる。
他人が入り込んでいい問題ではない。
ずっと幼なじみでやってきた二人なのだから。
躯が蔵馬の事を話さなかったのは栄子を思っての事なのか、それともただの躯のきまぐれ…遊びなのか。
少なからず躯が栄子を気に入っていることはよく理解した。
しかしだ…
「おまえ…頭弱いんだな、知ってたが。」
気付かない等とあるだろうか。
それだけ培ってきた絆は疑う事すらないのかもしれないが。
「酷い…せっかく怪我治してあげてるのに。」
つねってやろうか…と唇を尖らせる彼女に飛影は呆れた様に目を細める。
「…で、いつ帰るんだ?早く秀一と帰ればいい。」
早く帰った方がいい。
ここに居れば居るほど蔵馬の素性のばれる可能性が上がる。
だがその問いにきょとんとした表情で栄子は彼を見つめる。
「…試合見てから帰るよ、私。」
確かに飛影とも会え、ここが昔の魔界とは違い人間界と自由に行き来出来るのだと分かった。
それは以前幽助とその仲間と出会った時に理解するべきだったのかもしれないが…
「躯さんに言ったら私が消えた日にあっちに帰してくれるって言ってくれたし、安心してるんだ。」
でも知っていたならもっと早く行って欲しかったよね!!と、栄子は眉を寄せる。
飛影はやれやれと息を付く。
躯の性格上気に入っているのなら簡単に帰したりしないだろう。
しかし自分達が現れた事で彼女がいつでも帰れるのだと知ったのは事実。
賢い女だ。
消えた日に返す事を条件に今すぐ帰る事を彼女の選択肢から外すとは。
しかもそれも今になって、だ。
もし自分達が現れなければ帰す事等考えなかっただろうに。
「おまえ、あいつを信じすぎるなよ。」
魔界の海に彼女のアクセサリーを捨てるなど、悪質すぎる。
今現在彼女の手首にあるブレスレットと耳にあるピアスこそがダミーである。
そこまで手を込んだ事を躯がする事事態不思議で信じがたいがそれが事実。
困ったものだ…
「おまえ…人間の男にはモテんのに妖怪には好かれやすいな…。」
「…治療するんじゃなかった。」
ちょうど治療が済んだ様子で頬を膨らませ、ベーと舌を出す彼女。
どれどれと腕を回す。
傷の場所を見れば跡形もなく綺麗に完治。それに関心したように驚く。
「やるじゃないか。」
嬉しそうに彼の唇が孤を描く。
「…そっちの腕も、…治そうか?」
飛影の意外な感心する表情に嬉しくなり、包帯で巻かれた腕を見る。
「こっちはいらん。」
「包帯してるのに?」
首を傾げる栄子に怪我じゃないと伝えると飛影は席を立つ。
「どこいくの?」
「…秀一のところだ。来るか?」
修行には薬が必要。
試合まで一ヶ月を切った今、彼は狐に薬を適度にもらっていた。浅い傷はすぐ治る。
深ければこうして彼女に治してももらえるが…
今回は別だが、そうそう致命的な傷は修行上で負う事はない。
「…行かない。」
揺れる彼女の瞳。
「……そうか。」
…確信に変わる。
胸が締め付けられる感覚。
(俺は、ごめんだぜ。)
窓枠に足を掛ける。
後ろからは「あんまり無茶しちゃだめだからね!!」と心配する彼女の声。
それになぜか異様に苛立ち出す飛影は返事もせずそのまま外に出て行った。