第27話 君に捧ぐ
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「で…逃げてきた、と。」
躯は飲みかけのコーヒーをテーブルに置き、面白そうに笑いながら目の前の彼女に視線を向ける。
「…はい。」
向かいのソファに腰を下ろす彼女は、しゅんと肩を落とし紅茶を飲みながら深くため息をつく。
昼も過ぎ落ち着いたこの時間は、最近恒例の躯とのお茶の時間であった。
「大好きなんじゃないのか?おまえのあれへの懐き様は半端なかったと思うがなぁ。」
「そりゃ…好きは好きだけど…」
「求められるとどうしたらいいかわからんか?…全く、お子様だな。」
くすくすと笑う躯。
記憶をみた事のある彼女だったためか、この短期間といえど親しくなった為か、昨夜の出来事を相談した栄子。
興味のないことには気遣う素振りさえせない彼女だが、興味ある事には驚くほど素直にそれを示してくれる。
恋愛相談に乗ってくれるのか、いささか不安だったが、許容範囲のようだ。
「今まで幼なじみで家族みたいなものだったんだもの…。」
「ほう、おまえの世界では幼なじみや家族とあんな濃厚な接吻をするのか。それはすごい。」
「あっ、あれは!!!じ、事故で…」
「ほう…あれだけ翻弄されて事故とは…」
「む、躯さん!!」
ニヤニヤ笑う彼女に真っ赤になって叫ぶ栄子。
記憶を見られているという事はこういう事なのだと改めて理解する。
「知っているか?…本当の愛って見返りを求めないらしいぜ?なぜだか分かるか?」
「…なんで?」
いきなりなんだろうか。
「自分が愛しているからそれでいいんだと。相手に求める必要はないらしいぞ。」
彼女の側の誰かがそう言っていたのだろうか。
確かにそれは素敵なことである。
「それはそれで良いと思う、けど…。」
「俺からしたら偽善だな。それが成り立つのは、親子の間だけだ。他人同士ではありえない。」
好きなら相手の気持ちも欲しいものだと言いたいのだろうか…
それは栄子にも分かる。
「独占したくなるのは当たり前。相手を支配したくなるのは生き物の性だ。愛の形はさまざまだが…相手を殺してしまう事が愛情の場合もある位だ。」
「憎愛劇…とか良く聞くものね。」
(殺すのはどうかと思ってしまうけど…)
「幼なじみはどれなんだろうな…。狂ってない事を祈るが。」
躯は何を言い出すのだろうか。
まさかそこに辿りつくとは思ってもみなかった栄子はふるふると首を振る。
「俺的にはそれくらい愛してもらわなきゃ困る、がな。まぁ、殺される前に殺してやるが…」
あなたが狂ってます…
「まぁ、時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり考えたら良いさ、まぁ、ばばぁになるまでに答えだしてやれよ?」
「うん…。」
その響きも何気にリアルだから困る。
「その前にせいぜい食われんように気を付けるんだな。おあづけくらった狐はたちが悪いぜ?」
「…?」
狐におあづけした記憶もないのだが…
楽しそうに笑う彼女を見て、栄子は首を傾げた。