第3話 現の夢
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夏も半ばを過ぎ、まだまだ蒸し暑い明朝。
浅野家では栄子が寝ているベッドの横で心配気に娘を見下ろす母の姿があった。
つい先ほど娘の部屋の横を通りがかった折、ドアの隙間から光が漏れていたのを見た母。
青ざめた彼女はすぐさまドアを開ける。
そこには金色に体を光らせた栄子の姿。
娘のすぐ側にいき、手を合わせ座る。
そして何かを唱え出す。
険しい表情で合わせた両手は震える。
しかし徐々に栄子の体から光が消えていくのを感じると、母は手を離し安堵の表情を浮かべた。
もうそんな時期がやってきたのか…
母は過去二回に渡り娘に起きた出来事を思い出す。
「ん…」
栄子はゆっくり瞳を開ける。
うつろな瞳を横にいる母親に向ける。栄子はそこに母親がいる事がわかっていた。
「…今、また行きそうだった…?」
はっきりとした口調で、今起こった事を理解しているようだ。
「えぇ、でも大丈夫よ。今のは止めたから。」
「ありがとう。」
母は思った。
またあの時の様に
この子が消えてしまったら…
一度目は10年前。
中学生だった栄子が学校の帰りに行方不明になった。
消息不明、何かの事件に巻き込まれたのかと思った家族だったが、何も足取りが掴めぬままだった。
行方不明から2年半経ったある日、少し成長した栄子が着物姿で自分の部屋で倒れている所を発見された。
本人は過去の日本に居たという。
信じられない話を淡々とする栄子に、初めは父親が精神病院へ行かせようかと考えたものの、母親がそれを止めた。
元気に帰ってきたのだから必要ないと…。
そしてそれからさらに1年半後、17才のある日。
部活で疲れたと居間でうたた寝をしていた栄子が、光に包まれ消えたのを母親は見た。
それが二回目の行方不明になる。
それもまた1年たったある日、「ただいま」と普通に家に帰ってくる娘に、母親はどこにいたのかと聞くと、知らない世界にいたと言う。
行きも光に包まれ、帰りもいきなり光に包まれ帰ってきてしまうのであちらの世界の人にちゃんとお別れができない、と嘆く娘に母親は頭を抑えた。
ただ不思議なことに、一度目の過去に行ってきたという記憶がなくなっていた。
現在、栄子は自分はまだ一度しか消えていないと思っているようだ。
どちらにせよ、いきなり消えられてはこちらが心身共に持たないと悩んだ家族は、ある有名な霊能力者に相談をした。
彼女が教えてくれた術は、ただ消えるのを防ぐためだけのもの。
先ほどの手を合わせ唱えた言葉はそれである。
なぜ消えるのかは、本人に会ってみても分からないため、解決のしようがないと言われた。
「大丈夫だよ…もし消えてもちゃんと帰ってきてるでしょ。」
母親の悲しそうな顔を見て、胸が痛くなる。
たいした事ではないように言うことがせめてもの自分が母へ向ける気遣い。
「…引っ越し、大丈夫かしら。あなた一人だと不安だわ。」
「大丈夫だってば!もう社会人なんだし!」
「……。」
母親も自分もわかっていた。
なぜ一人暮らしをしたがるのか。
自立という言葉の裏には栄子のこれ以上家族にいらぬ心配かけれないという思いからであった。
また毎日心配されるのはありがたいのだが、それが逆に栄子を息苦しくさせる。
「秀一君には言ったの?」
「秀ちゃん?秀ちゃんはさみしいなぁって言ってくれたよ。」
「……それだけ?」
「?うん。」
「そう。」
少し残念そうに肩を落とす。
なぜ?っと頭を傾げる栄子に母親は、大きなため息をつく。
「まぁいいわ。まだ起きるには早いからあと少し寝なさい。引っ越しの話しはまたしましょう。あなた仕事中に寝てしまいそうだから…。」
呆れ口調で話す母に、苦笑いしながらも栄子は素直に返事をする。
母親が出て行った後。
栄子は自分の右の手のひらを見る。
(やっぱりまたかぁ…)
光が少し残る右の手のひらを、左手でこすってみる。
少し薄くなった気がする光を見て栄子も大きなため息をついた。