第26話 愛しき人
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「秀ちゃん!!…秀ちゃん!!どこ!!!!」
森の中を裸足で走る栄子。
目が合い、固まっていた秀一はしばらくすると会場から出て行った。
そして、今にも飛び出して行きそうな、そんな自分の様子を見かねて躯は行かせてくれた。
会場から出た所で彼の姿を見失うものの、扉の側に居る妖怪に聞くとすぐそこの階段を下りていったと話す。
すぐさま降りていくと出た場所には何もない、目の前には森が一面に広がる。
まさかここに入ったのだろうか-…
と不安に襲われるものの、勇気を出し中に入る。
そして今に至る。
さわさわ草木が鳴る、生暖かい風が吹く。
「秀ちゃん!!どこ~!?」
呼ぶものの返事はない。
まさかここではなかったのだろうか。
日がだんだんと落ちてくる。
あまり暗くなると次は帰れない。
なぜあの場にいたのか、魔界にいるのか…
聞きたいことは山ほど…
そして-…
会えた事がこんなにも嬉しい。
その心情も彼ならきっとわかっているはずなのに。
「秀ちゃ~ん!!!」
何度呼んでも返ってくることはない。
「…秀ちゃん-…」
他の場所を探そうかと来た道を戻ろうとした、その時だった。
鼻を掠める甘ったるい香り…
『…栄子』
そして、風に乗り微かに聞こえた甘い声-…
「え…」
『俺はここだ-…』
「秀ちゃん?…どこ?」
彼の優しい声があたりに響く。
『こっちだ…こっち-…』
見回すが彼の姿はない。
声のする方へゆっくりと歩く。
甘い香りが強くなる。
『そう良い子だ、こっちへおいで。』
頭がぼんやりする-…おかしい。
鼻の奥がつんとして痺れだす。
『栄子…こっちだよ、もうすぐ。』
「ど…こ…?」
『もう少し、もう少しだ…』
「秀ちゃん…」
視界が霞む。
霧掛かった先にかすかに映る赤いものに手を伸ばす。
「栄子!!!!」
すぐ側ではっきり聞こえた秀一の声と共に、目の前に映る大きな口を開けた真っ赤な花が襲ってくるのはほぼ同時だった。
目を見開く彼女の前で真っ二つに裂ける花はその場に崩れ落ちる。
人間界の花とは程遠いものの、それは躯の部屋の本棚にあった「魔界の植物」という書物で見たものと全く一緒のものだった。
その場に力が抜けたようにしゃがみこむ栄子。
崩れ落ちた花の先に映るのは、探していた赤い髪の彼。
手に持つのは植物の茎で出来たかのような鞭。
側に来ると自分を抱きしめる。
しばらくなかった彼の香り…
彼の体温-…
間違いなく彼だ。
目頭が熱くなり、涙が溢れ出す。