第25話 翡翠の瞳に恋して
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聞いていない。
いや勝手に思っていた…
彼女の後ろに立つ役目を持つ女性が自分以外にも他に何人かいるのだと…。
「やだってば…恥ずかしいから!」
半ば強引に躯に手を引かれ階段を下りていく。
彼女のエスコートは上手だ。
だからこそ困る。
こちらの足元に気を配りながらも、手をしっかりと握りバランスよく歩く彼女に、それにつられて歩いてしまう自分。
「私ひとりとか、恥ずかしいし…聞いてないしぃ~!!」
いやいやと首を振る。
「言ってないが、聞かれてもいないぞ?」
しれっとした顔で言う躯。
これは覚悟を決めるしかないのか…?
手をひく彼女の姿は個性的にアレンジにした少し気崩した様なスーツ姿。
青いネクタイと白いのシャツが異様に様になっている。
(…どこかのホストのみたい…)
女性とはいえ、そこらの男性よりはかっこいい彼女。
スーツ姿も驚くほど様になっている。
しかし、躯までその姿だと、自分がさらに目立つのではないだろうか。
不安が脳裏をよぎる。
黒い大きな扉の前に立つと、両サイドに待機していた妖怪がその扉を開ける。
逃げられない…。
開け放たれる扉。
前すら見えない光りが彼女と自分に降り注いだ。
鳴り響く拍手と歓声。
大きなホール。
手を引かれながらステージの中心のマイクの側まで行くと、躯が小さく囁くものだから、軽く会釈。
そして彼女はマイクを取る。
「良く来てくれた、諸君。今回は俺が挨拶をする事にした。いつもは俺の部下がしてくれてるんだが…まぁ、今回は俺の気まぐれだ。」
栄子はそそくさと彼女の後ろに下がると、ちらりとステージの袖にいる奇琳を見るが…苦笑。
(…ショック受けてる。)
明らかにがっかりとした表情に肩を落とす彼。
普段仕切らない彼女も挨拶は毎回しているのか、慣れたのもので(彼女の場合、慣れてなくてもすんなりやってのけそうだが…)すっと耳に入る透き通る声。
そして、今度主催されるトーナメント戦についの心持ちも話す。
丁寧とは言えない言葉だが、部下を気遣う彼女の心遣いが手に取るように分かる。
(実際は優しい人なのよね…)
そう思いながら、緊張しながらも心穏やかに彼女を見ていると…振り返り自分を見て面白そうに口角を上げる彼女と目が合う。
「そして…彼女は俺の今一番のお気に入りで、今回のトーナメント戦の躯側の治療班にまわってもらうことになった。」
「…えっ…」
一気に嫌な汗がだらだらと流れる。
「ほら、挨拶。」
顎で周りの妖怪たちを差す彼女に、話が違うと口をぱくぱくとさせるものの、次の瞬間早くしろとばかりに睨まれしぶしぶマイクの前に立つ。
何を話せば良いのか。
練習すらしていないのに、しかもこんなに大勢の前で…
回りを見回す。
何か言わなければ…
「えっと…今回、躯側治療班に配属になりました、栄子と申します。よろしくー…」
見回す視線が一点で止まる。
時間が止まる-…
大きく見開く翡翠の瞳。
癖のあるその赤い髪。
自分を見つめたまま固まる。
秀一の姿-…
「…秀、ちゃん…」
なぜ、ここにいるの?
運命とは時に残酷。
逃げても形を変えて知り得る。
-…男は思う…
失う事に怯え、彼女との永遠を願った為に訪れた愛しい者の死…
思い出すのは…
人魚だったのに暖かかった彼女の手…
それに二度と触れる事はかなわない