第23話 人魚と男の物語
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魔界の月が青白く静かに輝く。
魔界の月は二種類ある。
大気の状態に寄って色が違って見えるそれは実際はひとつの月である。
魔界の奥にある森の中、上から降り注ぐ月の明かりで、青白く輝く草木はさわさわと風に揺れる。
その風に乗って鼻を掠める血の香り。
「こんな所にいたのか…蔵馬。」
舌打ちと共に呟いた飛影は、目の前にいる男の姿を見つけると眉を寄せた。
背を向けている男の前に横たわる妖怪の姿。
「…襲われたのか?」
横たわる妖怪達は三匹。
何度も切り刻まれた無残な姿。
既に死んでいるようだ…
それを狐の後ろから見下ろす飛影の赤い瞳が彼の返答を待つかのように静かに瞳を上げる。
長く少し癖のある赤い髪が風になびく。
ゆっくりと振り返ったそこに映るのは、翡翠と金の入り混じった凍るような瞳、飛影ですら寒気を感じる程の冷たい妖気を纏う狐の姿であった。
「えぇ、からまれまして…ね。」
言葉を発すると少しほぐれた狐の表情。
しかし、下手に触れば切られてしまいそうな妖しさを漂わせる狐に飛影は怪訝そうに眉を寄せる。
「からまれただけで殺したのか?」
飛影の揺れる瞳が翡翠の瞳を捕らえる。
その言葉に瞳を細め、くすりと微笑む。
「…そんなに珍しいですか?」
これは一体誰なのか…。
今までに見たこともない狐の様子に目を細める。
殺した事に何も感じていない様子の蔵馬。
妖怪なのに人間以上に人間臭くなった彼のこの変わり様。
やはり彼女の事があったからか…。
飛影は瞳を伏せる。
「ぼたんが探している。おまえが霊界の禁書を盗んだと、疑っている。」
「そうでしょうね。で…あなたが俺を捕まえに?」
「いや、逆だ。」
狐は一瞬目を見開くものの、翡翠の瞳を伏せ形の良い唇で孤を描く。
「あなたを巻き込むつもりはありません。」
「俺が勝手にやるだけだ。」
「……。」
「禁書に何かあったのか?」
すると蔵馬は、俯きくすくすと笑う。
その様子を飛影はちゃかすな、と不機嫌そうに
目を細めるが…、顔を上げた蔵馬の瞳は笑っていない。
翡翠の瞳は切なげに揺れ、遠くを見つめる。
「禁術は、未来永劫苦しむ術です。かけられた側は生きている間も代償は付きまとい、死しても待っているのは無。天国へも地獄へも行けない。例え生きていても呼び戻すのに禁術を使うなら同罪です。…他に例外はなかった。」
「……。」
「彼女には使えない。」
狐はそう言うと、空を見上げる。
木々の葉に少し隠されながらも、はっきりと見える青い月。
蔵馬の頬が白く輝き、悲しげに瞳を細める…。
「…躯の所に行けば何かわかるかもしれん。」
「躯が、協力してくれますか?」
「せんなら力づくだ。」
蔵馬は少し微笑む。
飛影は「ただし、確実に暇つぶしには付き合わされるけどな…」と笑う。