第2話 痛みと優しさ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
店に戻ると中原が嬉しそうに顔を輝かす。
「あらぁ、秀一君!?」
「お久しぶりです。」
柔らかく微笑み挨拶をする。
なんでここに…と問いかけるが秀一のスーツやシャツの染みを見て、なるほど。と納得する。
「メンズはあいにく置いてないのだけど…。社長の代えスーツが少しあったような…ちょっと待ってねっ!」
中原はスタッフルームに入っていく。
「ごめんね、秀ちゃん…」
しゅんとする栄子。
「いいよ、わかってて抱き寄せたんだし。」
少し微笑みながら翡翠の瞳を細める。
さらっと言う一言に栄子はまた赤くなる。
(なんか今日の秀ちゃん…いつもより甘い…。)
他の女性スタッフや客は頬を赤らめたり、黄色い声を上げている。
「秀一君ちょっと…。」
中原がスタッフルームから顔を出し秀一を呼ぶ。
彼がスタッフルームに入り、客の足が減ると…
「ちょっと!浅野さん!あんな素敵な人が幼なじみなの?」
スタッフの一人が興奮しながら話しかける。
それにつられ、わらわらと人が集まり質問攻めが始まる。
「あの人いくつなの?」
「彼女いるの?彼女!」
「噂で聞いていたけど、まさかあれほどとわ!」
「本当にただの幼なじみ!?」
畳み掛ける様に言葉が飛び交う。
(相変わらずどこでもモテる人だなぁ…)
栄子にとって秀一はいつも自慢だった。
格好良くて、優しくて頼りになって賢い。
何をやらせてもパーフェクトな人だった。
「秀ちゃんはねぇ…」
栄子は気分良く秀一の自慢話を始めた。
先程の悲しみなどすっかり忘れて。
「まるでお兄ちゃんみたいね。」
何着かスーツを秀一に渡す中原。
どれでもいいわよ、と付け足す。
「幼なじみも大変ね。妹みたいな感じなの?」
「まぁ…そんな感じです。」
中原はふーんと目を細めいたずらっぽく笑う。
「妹を抱きしめる兄か、恋人みたいだけど。」
秀一は中原の言葉に苦笑するだけで、スーツに腕を通す。
「秀一君、あなた彼女いるんでしょう?…なら、あの子を構い過ぎるのは良くないんじゃないかしら?」
「……。」
「あの子は惚れやすいみたいだから、あなたみたいな人がずっと優しく構ってしまうと勘違いしてしまうわ。」
さっきの茶化すのとは違い真剣な中原の言葉。
その言葉に秀一はくすくすと笑う。
「ご心配なく、それはないです。」
中原はなんで?と頭を傾げる。
「彼女にとって俺はただの幼なじみだから。」
「…なら、あの子があなたに好意を抱いていたら?」
秀一の表情が曇る。
「…栄子がそう言ったの?」
中原は首を振る。
「仮定の話ですね。」
ありえない、と彼は翡翠の瞳を揺らす。
もしそうなら…
「秀ちゃん、まだぁ?」
栄子が扉を少し開けて声をかける。
「あら、浅野さん。私と彼の時間邪魔しないでくれるかしら?」
冗談混じりに笑う中原。
「えぇー、先輩独り占めー!」
ずいっと扉の後方から顔を出すスタッフ達。
「私もしゃべりたぁい!」
「秀一さん、ごっご趣味は…なんちゃって。」
「好きな食べ物は何ですか?」
「SかMならどっちだと自分で思います?」
好き勝手言い始めるスタッフ達に中原はそろそろ締めるかと座っていた椅子から立ち上がる。
「あなた達、いいかげんに…」
「年上と年下!どっちがタイプですか!?」
ピタッと止まる中原はそのまま秀一の顔を勢いよく見る。
「え…、まぁ好きになるのに年齢は関係ないですね。」
気迫に押され、一歩下がって返事をする。
「あら…なら私とかも女にみてくれているのかしら?」
中原は秀一の胸元にスーと指で線を引く仕草をする。
その仕草に栄子はどきどきする。
(わたしもあれくらい色気があればなぁ…)
「もちろんですよ。素敵な女性だと思っています。」
「……。」
色気の効果ゼロ。
社交辞令満開だとわかる。
その後、皆仕事中にも関わらず秀一が帰るまで質問攻めと色気攻撃は続いた。
ごめんね、秀ちゃん…