第23話 人魚と男の物語
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躯の部屋から、聞こえる栄子の嗚咽。
「……おまえに読ませると本がぐしょぐしょだな。」
向かいのソファに座り一生懸命本を読む栄子の様子を見ながら、勘弁してくれよ、と躯は苦笑する。
「だ…だって…、これ…これ!!!」
涙をだらだらと流す彼女は拭くことも忘れているのか、そのまま躯を見上げた。
「やっとママに会えたんだよ!!!!」
わぁ~んと泣きながら本を抱える。
題名は「ミツバチ・パンチ」。
生き別れた親子蜂が長い旅の末に出会うという感動する内容の話だ。
その様子をソファにもたれたまま、子供だな…と呆れた様に息を付く軀。
結局は本は愚か、絵本を読み出した彼女に呆れるよりも哀れに思えてきたとは言うまでもなかった。
本人曰く、言い回しが難しいたら、漢字が読めないたら、あげくには魔界の字は読めない、等と言い出してきたのだ。
ならば絵本すら読めないだろうと思うのだが…。
『これって大人向きの絵本だね。人間界にもあるんだよ、大人の絵本とか大人の塗り絵とか!!』
等と言っていた彼女が本当に哀れだ。
「ミツバチ・パンチ」を大人の絵本だと言う彼女の思考はなんと可愛いことか…。
幼なじみの側で培った「本好き」とはよく言ったものだ…
躯は大きくため息を付いた。
「…あれの感想を聞きたかったんだがな。」
そうポツリと呟く。
「え、何?」
「いや…。」
躯は机の上に置かれた古い本をちらりと見る。
読んでないと-…そう言ったのがいけなかったか。
男は泣いた-…
海辺で戻って来ない愛しい人魚を毎日待った。
涙は海に溶けてゆく。
時間の感覚さえない、空腹さえ絶えられるこの命。
人は生と死が隣合わせだからこそ生きることができるのだ。
それをなくした男は何を思うのか-…
時代は流れる。
いつからか、魔界の海は酸の海と化した。
それは、男が流した涙が作ったものなのか。
そこに彼の姿は既にない-…