第22話 海の底まで
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「むむむむむ…」
「………。」
「むむむむむむ…」
「栄子様、黙ってできないですか?」
「いやぁ、そう言われても、ね…」
ある部屋の一室。
栄子の目の前には頭に角を生やしたウサギがぐったりと小さなベットに横たわっている。
それに両手を翳してた彼女だったが、変化のない状況にがっくりと肩を落とす。
「お願い、コツ教えて!コツ!!」
隣にいる、治療班のリーダーに手を合わせる。
リーダーは女性で、栄子より少し年上くらいだろうか。
金髪で青い瞳が印象的な美人である。
「全身に気の流れを感じて、両手にそれを集める感じです。最初は分かりづらいど思うのでご自身の血液の流れを感じてください。」
さっきも言いましたよ、と呆れ顔で言われる。
「もう一回見せて、ルナさん!」
やれやれといった感じで、浅野は苦笑すると両手をウサギにかざし目を伏せる。
栄子から見ても、両手に赤いオーラの様な物が集まっているのが分かる。
それがウサギを包み込むと馴染む様に消えていく。
しばらくすると、ウサギはムクリと起き、浅野の手に擦り寄っていく。
「…何度見ても感動します。」
「感動してちゃだめですよ、これが普通に出来るようにならないと。」
「…出来るのかな、私。」
「出来ないなら私が躯様に殺されますので、出来るようになってくださいね。」
にっこりとしかし、何か真に迫った感じで言われ栄子の顔は引きつる。
そして、元気になったウサギは浅野の肩に登ると、真っ赤な瞳でじっと栄子を見つめる。
「よかったね~、元気にしてもらって!いいかげん、怪我ばっかりしてちゃだめだよ?昨日も死に掛けてたし-…」
と手を伸ばすと、ウサギの毛が逆立ち牙を向く。
「わっ…」
「気をつけて、慣れてないから噛みます。」
「ルナさんには懐いてますけど。」
「私が怪我を良く直すからです。害がないとわかっているから、この子は。」
ねっ!と、ウサギの頭を撫でる。
気持ち良さそうに目を瞑るそれに一瞬幼なじみに撫でられる自分と重ねてしまい、異様にうらやましくなる。
「そんなにしょっちゅう怪我するんですか、このウサギ。」
「いえ、訓練用に怪我をさせられるんです。」
「え…」
思いも寄らなかった一言に顔を顰める。
「…どういうこと、ですか?」
「こういった新人講習では、動物達に怪我をさせて訓練します。まずは基礎から、基礎さえできればあとは応用ですから。」
「いや、そういうことじゃなくて。…いくらなんでも、ウサギ可哀想だなって。」
「まぁ、それは仕方ないですよ。人間でもあるでしょう…、だいたいモルモットになるのは動物です。」
「……で、でも…」
「昔は人間がモルモットだった時代もあるんですよ、この城の地下には人間の貯蔵庫だってあったんですから。」
その言葉に一瞬耳を疑うものの、だんだんと青ざめる栄子。
貯蔵庫…何の為に貯める必要があるのか、まるで食べる様な彼女の表現に想像豊かな彼女は眩暈がしそうになる。
ここは躯が主の城だ。
という事は、彼女がそれを指示していたのだろうか。
あんなにも、優しそうな彼女(何を考えているかは分からないが…)が、以前は人間をどうしていたのだろうか。
(怖いよ~…食べられないかな、私。)
「あら、青色が悪いですね。まだ体調は本調子ではないのでは?少し休憩しますか?」
「い、いいえ。続けてください!!早くできるようになりたいので!!」
使えない人間なら食料になる事もありえるのかもしれない。
早く出来る様にならなくては。
自分の身は自分で守らなければいけないのだと、栄子は自分の置かれた状況を知る。
「では、スパルタで参りましょうか!そろそろ、皆さんトレーニングが頻繁になってきていますので、治療も多くなってきます。大会一ヶ月前になると躯様のお客様たちもこの城に滞在される事になるのでまた忙しいかと。」
「へ、へぇ…」
(早く出来なければ!!!)
栄子は改めて魔界に、身の危険を感じていた。
(出来なければ、食べられる!!!)