第22話 海の底まで
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海が大きく波打つ-…
生暖かい血の香りと鼻を刺す悪臭がたちこめる中、それでもかすかな潮の香りが広がる。
昔は青く美しかった魔界の海も、今では触れるもの全てを溶かす酸の海と化していた。
「…これか-…」
飛影は腰を落とし、それを手に取る。
砂浜に打ち上げられたブレスレットは、酸で形が歪み既に機能を失くしている。
以前は花の形をした水晶を幾重にも重ねたもの。
それは秀一が妖力を含ませ彼女に持たせた物だった。
(蔵馬の妖力あっても、こうなるか…)
飛影の赤い瞳が揺れる。
そして、少し離れたところにいる狐の姿。
砂浜に腰を下ろし、砂に埋もれたピアスを手に取る。
そのまま動かない狐に、歩みよる飛影。
「…それも、か。」
かすかに感じる妖気。元は花のピアスだったと思われるそれも形は歪なものになっていた。
邪眼で姿を確認できなかった飛影は、彼女の持ち物に的を変えた。
狐の妖気が通うそれ達。
それを察知したにも関わらず彼女の姿を確認出来ない事に飛影は不安を感じていた。
そして…
一言も言葉を発さない狐。
狐の妖気は不安定に揺れる。
握り締めたピアスは音を立て彼の手の中で壊れる。
飛影の双方が不安気に揺れる。
「…蔵馬…」
長い銀髪が彼の表情を隠したまま、狐は動かない。
「蔵馬!!」
力任せに肩を掴み、向かせる。
それに簡単に従う狐の力の弱弱しさと、彼の瞳を見た飛影は目を見開く。
最悪の結果だと…
狐の瞳を見た瞬間、確信に変わる飛影。
「…嘘、だろ。これはあいつを守れるくらいの妖気があったんだろ!?」
飛影も分かっていた。
確かにあったのだ。酸の海に落ちなければ…
飛影の邪眼に映らなかった彼女。
壊れたアクセサリー達。
他に救われる可能性がどこにあるのか。
飛影は、狐から一歩離れ崩れるようにそこに座り込む。
「嘘だ…」
呟く飛影の苦しそうな声は狐の耳には届かない。
揺れる金色の瞳に、頬に流れる雫。
それを流したことのない狐はそれが何か分からない。
止むことなく流れ落ちるそれ。
ぼやける視界の片隅に映る手の平の上で粉々になったピアスの破片は、さらさらと魔界の風にさらわれる。