第21話 新生活のはじまり
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「お前から来るとは、嬉しいじゃないか…」
彼女は女だ。
女のはずだ…
なのに、なぜこんなにも男性のようなのか。
見た目じゃない、雰囲気がだ。
薄暗い部屋。
彼女は大きなソファに身を沈めながら、こっちへ来いと手招きをする。
変に緊張する栄子。
(気楽に来るんじゃなかった…それに…)
ひらひらと揺れるドレス。
「…これ、趣味なんですか?」
着慣れないドレスに少し赤くなる。
淡い桃色のドレス。
ところどころに花の飾りのついたかわいいものだ。
「かわいいだろう、栄子ちゃんに似合うと思って用意したんだぜ。俺的には赤いの着て欲しかったんだが…。へぇ、そういう趣味なんだな。」
「いや、花が好きなんで…つい。」
じっと見つめられ、恥ずかしくて思わず俯く。
本当はドレスなど着る気がなかったのだ。
しかし、さすがに着てきたパジャマ姿ではうろうろ出来ない為、しぶしぶドレスを選んだ。いやドレスしかなかった。
「花…ね。」
何か含んだ笑みをする。
「これからは毎日ドレスだ。いいな?」
「え…な、なんで?」
「栄子ちゃんはお客さん。その格好だと、城の奴らも気軽に声もかけないだろう。俺の城だと言っても色んなやつがいるからな。」
「客…、い、いやいや、躯さん、それは…そこまでご迷惑かけれないし…」
「行くところがあるのか?」
「いえ、でも…」
たまたま好意的な妖怪の元へ落ちたのは運が良かった。
だけど、それに甘えていいのだろうか。
「気兼ねなくいてくれると嬉しいんだが。俺も最近退屈してるんでね。」
遊んでくれよ?と妖しく目を細め笑う彼女。
一体何をして遊ぶのかと、聞きたくなるほど妖艶なそれに栄子は一瞬くらっとする。
(女の人にくらくらするなんて!!)
彼女には中原とは種類の違う色気を感じる。
「……、でしたらお仕事させてもらえますか?」
気を切り替え言った一言に躯は面白そうに笑う。
「へぇ…。何の仕事?俺の身の回りでも世話してくれるのか?夜とか、さ。」
「!!!??…ち、違います!!」
思わずらしからぬ想像をしてしまい真っ赤になりながら叫ぶと、彼女は声を上げて笑う。
(この人…危険かも!!)
「冗談だ、俺は女だぜ。まぁ、栄子ちゃんならいけそうな気もするけど。」
とまだ言い足りないのか、妖しく瞳を光らせ見つめる。
「私はいけません!!」
なぜ、会って間もない人にこうもからかわれなくてはいけないのか。
ムキになるからいけないのだろうか。
「そうだな、少し霊力もあるみたいだし。それで仕事してもらおうか。」
「え…」
思わぬ一言に固まる。
「今度、魔界でトーナメント戦があるんだ。それに向かう治療班の一人になってもらうってのは、どう?」
「それって…妖怪達が戦う大会ですか?」
「あぁ、そうだ。」
知っているだろう?と笑う。
「…治療班って、怪我とかした人の治療ですか?」
「まぁ、簡単に言えばな。大会には怪我人が馬鹿な程でるからな。一般の治療班は半端なく忙しいが、お前は俺の専属の治療班になれ。もちろん、俺ひとりじゃない、俺の部下達の治療も頼みたいんだが。なに、そんなに難しいことじゃない。」
「治療って、その…霊力で、ですか?」
「そうだ、霊力があるなら治療できる。多少の訓練は受けて上げてもらわなきゃいけないが…、なんとかなるだろ。」
「はぁ…」
「いざとなったら、俺が手取り足取り教えてやるから心配するな。」
「いや、結構です。」
どこまでも彼女はこう言った冗談を含みたいらしい。
彼女の部下達は大変だな、と栄子は思う。
躯はそれで決定だな、満足そうに笑う。
「あと、今日の夕食は俺と一緒に食事だからな。」
「はい。」
「毒蛇のムニエルに海坊主と人間の生き血のスープ…それに-…」
「お腹痛いので遠慮しておきます!!!」
「ばーか、冗談だよ。誰が食うか、そんなもの。」
「……。」
「怒った顔もかわいいじゃないか。」
食えないやつとは、こういう人を言うのではないのだろうか。
目の前の自分の雇い主(?)はさも楽しそうに反応を見て笑うが、きっと自分の口は引きつっている…そうに違いない。
(本当にここにいていいのだろうか…。)
栄子はがっくりと肩を落とした。