第21話 新生活のはじまり
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頭の奥に眠っていた記憶は、一度呼び戻されるとそれは溢れるように意識の中に流れ込む。
思い出したくなかったものまで、次から次へと溢れかえる。
あの頃、この感覚を抱え、私はどう生きていたのか。
それを受け入れきれず目を逸らしたかった。
帰ってきた世界は暖かく眩しく、血も流れる事も少ない時代だ。
あれは夢だったと、錯覚を起こしてしまいそうになるものの、自身の為に亡くなった命は少なくない。
それにうなされる夜もあった。
しかし、この平穏な世界に癒され、その感覚も穏やかな物となり徐々に受け入れられるようになっていったのも事実だった。
そして、たまに見るのは彼の夢。
銀髪の長い髪に薔薇の香りをのせた、夢なのに胸が苦しくなる妖怪の夢。
目覚めればいつも涙が流れ、息が苦しかった。
記憶がない間も見ていた夢。
目覚めればいつも忘れていたのだと…今なら分かる。
愛しい愛しい夢。
青がかる月の明かりが寝ている彼女の頬に流れる涙を照らす。
ゆっくりと流れ落ちるそれは、枕に染み込む前に丸く形を変える。
ころころと枕の周りに転がり出す涙の石は、しばらくすると形をなくす。
まるで少しだけ時間が止まったような、未完成な石。
震える口元がかすかに言葉を紡ぐ。
「--……」
それは小さく息をする位小さいもの。
夢に見てるはずの彼とは違う名を呼ぶ。