第21話 新生活のはじまり
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いい香りがする。
甘い甘い香ばしい香りがする。
今日の朝ごはんはフレンチトースト…
違うかな…ホットケーキ?
ママの得意なメイプルシフォンケーキ?
今日は…休日だったっけ?
太陽の香りのする枕。
いつもよりフカフカな布団。
手足を伸ばしてもベットから出ることはないこの広さ…
うん、なにかおかしい。
うっすら目を開けてみると
見たこともない広く綺麗な部屋。
少し離れた所にあるテーブルに並べられた朝食と思われる豪華な食事。
ゆっくりと起き上がり、頭を触ってみるといつもに増してぼさぼさの寝癖の髪の毛。
はっきりしない脳みそ。
そしてベッドから降りようとすれば激しい立ちくらみで、再びベッドへダイビング。
さて…ここはどこでしょうか。
体もおかしいが、全てが変だ。
「栄子様、起きられたのですか?」
部屋の扉が開かれたのと同時に、鈴のようなかわいい声が耳に優しく響いた。
頭だけををゆっくりと起こしてみれば、そこにはメイド服らしき物を着てきょとんとした瞳をこちらに向ける女の子。
彼女の手には台車が引かれその上には食事が乗っているようだ。
「おはようございます。ご気分はいかがですか?」
視線が合うと彼女はにっこりと微笑む。
まだ十代かそこらの女の子。
「気分は…最悪…です。」
全く状況を掴めていない栄子だったが、それよりも今はこの体調の悪さに気持ちが悪くなっていた。
「あら、そうですの?毒がまだ抜け切れてないんですわ。お食事後にお薬を飲みましょうか。」
「…毒??」
(というか、この食事は…私用?)
「はい、栄子様は躯様の花壇にある妖美花の毒を吸い込んでしまったんです。妖怪でも死んでしまう事だってある、とっても危険な花なんですよ。」
良く生きていましたね、奇跡です。と、人差し指を立て、嬉しそうに笑う。
「妖怪…ここは魔界?」
「はい、そうです。いらっしゃいませ、栄子様。躯様のお城へ。」
満面の笑みでそう返され栄子は頭を押さえる。
「はぁ…、こんにちわ。」
三度目ともなるともうあまり驚かない。
しかし本当にいつも唐突だ。
しかし今回もいい妖怪の元へ落ちたのは事実らしい。
生きている事がなによりの証。
何から考えたらいいのか…頭で整理をしようとする栄子との視線が物珍しそうこちらを見る女の子の視線とぶつかる。
「…なんですか?」
「あっ、いえ躯様の言ってたとおり魔界でも驚かないんですね。だいたいは驚くか信じないか…なんですけど。」
へぇっと面白そうに目を輝かせる。
(…躯?…聞いたことないけれど…。)
「…あっ、今って平成何年ですか?」
「平成?平成ってなんですか??」
「え…、」
(まさか…)
過去にきてしまったのでは…
忘れていた記憶とはいえ以前平安時代に行ってしまった時の記憶が蘇る。
「心配するな。タイムスリップなんておちはない。」
空気が変わる。
眠っていた意識の中で聞いた少し低い透き通るような声。
扉越しに白い包帯が目に入る。
メイドの女の子は口に手を当て扉越しにいる女性に頭を下げ慌てて下がる。
包帯で顔の半分を隠しながらも、美しい顔立ちだと分かる女性。
意志の強さそうな瞳に、本人は意識してなさそうだが威圧的なオーラ。
自分を助けてくれたのは、この人だとすぐに分かった。
「…許しておくれ。さっきのメイドはまだまだ勉強不足でね。魔界と人間界では言い方が違うから分からなかったのさ。」
そして…
「紹介がまだだったな。俺がここの主、躯だ。よろしく、栄子ちゃん。」
にっこりと笑顔で話す彼女。
いつもの癖で笑い返しそうになる栄子だったが、すぐさま疑問がいくつか浮かぶ。
「…なんで名前知ってるんですか。」
そういえば先ほどの女の子も自分の名を普通に呼んでいたではないか。
名乗った覚えも面識もなにもない。
しかもだ、この躯という人物はなにやら自分の事を知っていそうな言い方だった。
以前、魔界にタイムスリップをしたことまで知っていそうな口ぶり。
「…おまえの記憶は見せてもらったよ。栄子ちゃん。」
まるで心の声を読んだかのように、優しくしかしどこか妖しく微笑む彼女の笑みにごくりと唾を飲み込む。
「とりあえず、体調をどうにかしてもらわないとな。話したいことはたくさんある、もちろん栄子ちゃんも、だろ?」
見透かしたような瞳を向けられ、こくこくと頷く栄子。
直感だが、彼女に逆らうと良くない気がする。
そんな栄子の様子を見てか、楽しそうにふふふと笑い彼女は目を細めるのだった。
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