第18話 気分転換
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ダダダダダダダ-…
激しく階段を駆け上がる音。
そして勢い良く扉が開かれ、そこに現れたのはこの部屋の主だった。
仕事から帰ってきたのであろう彼女は、急いでクローゼットを開き服を選び出す。
それを、ソファにもたれた飛影は不思議そうに見ていた。
「…どこかいくのか?」
「うん!あっ…来てたんだ!!ゆっくりしていってね、飛影。」
これもだめ、あれもだめ!と服を床に散らかす彼女を呆れた表情で見る飛影。
飛影は思う。
自分がなぜここにいるのか。
彼女は分かっているのか、分かっていないのか…。
能天気な彼女に、頭を押さえる。
「一人でふらふらするなと…」
「大丈夫、皆いるよ。コンパに誘われたの!」
「……なんだと?」
明るく話す彼女に一気に眉を寄せる飛影だったが、そのまま彼女は言葉を続ける。
「中原先輩ってこないだ会ったでしょ?先輩がね、気晴らしにって誘ってくれたんだ。」
「…あの女、か。」
ちっと舌打ちをする彼。
会社まで何度か迎えに行った飛影は中原に面識はあった。
しかしだ…
『あら、かわいい…弟さん?似てないわね…』
その一言で彼から殺気が漏れたとは言うまでもなかった。
(だれもチビとか言ってないのに…)
その時に栄子が心の中で呟いた事は彼には内緒だが…
「そういえば、同期の女の子が飛影の事紹介して欲しいっていってたよ。かっこいいって騒いでた。」
飛影ももてるよね~!と人事のように話す栄子に若干のイラつきを覚えるものの、「お断りだ」と舌打ちをする。
そして、楽しそうに笑う栄子を怪訝そうに見つめ眉を顰める。
「?どうしたの?」
じっと自分を見つめる彼の視線に気付き、首を傾げる。
「おまえ、さみしいから男が欲しいのか?」
「え…そうなっちゃう??」
そうとられちゃうのかぁ…と口元に手を当てる彼女を横目に、飛影は立ち上がるとベットの枕の下から一冊の本を取り出す。
あたかも自然すぎる動作にあっけにとられる栄子だったが、ぺらぺらとそれをめくり中を見る彼に、何かに気付いたのか、みるみるうちに赤くなっていく。
「そ…そ、それ、なにしてんのよ!!」
我に返りそれを取り返そうとするものの、彼はひょいっと避け不適に笑う。
「これを実践するのか?」
面白そうに笑う彼に、かぁーーーと真っ赤になる栄子。
それは以前、彼女が失恋の痛手を負った時に買った本であった。
「それは…、もう!!返してよ!!」
「男が欲しいのか、おまえ。」
「違うったら!!ただの気分転換なだけだってば!!」
「ほう…。」
面白そうに目を細める彼に、嫌な予感がするものの本を返せとばかりに飛びつく、が軽く避けられ触れる事さえできない。
「返してよ~!!」
(中にメモ書きも一杯してるのに~!!)
真っ赤になり叫ぶ。
「馬鹿な集まりにいかんなら返してやる。」
「馬鹿じゃないし!!何回も言うけど、気分転換で…」
「気分転換できればいいのか?」
「そうよ、ただの気分転換なんだから!!」
時計を見る彼女は、もう時間だと焦る。
しかし、彼に取られた本をどうにかしなければ。
誰か知り合いに見せられでもしたら恥ずかしすぎる。
彼に限ってそれはないと思うものの、このまま出かけても問題ないのかが心配であった。
「どうしたら返してくれるの?もう行くって約束したもん、いまさら断れないよ。」
「なら、早く帰って来い。」
「え…それでいいの?」
「あぁ、でも馬鹿な真似はするなよ。」
「わ、わかった…わかったから、それ返して。」
さっきまでのはなんだったのだろうか。
遊ばれただけだろうか…。
いやにあっさりしている彼を不思議そうに見ると、彼の口角が上がるのが見えた。
「約束を守れたら返してやる。」
そのまま本を持ってベランダから外に出て行く飛影。
「な、ちょっ…持ってちゃ、だめーーーー!!!」
伸ばした手はむなしく空気を掴む。
彼の姿は遠ざかる。
半泣き状態の栄子はその場に崩れ落ちた。