第17話 過保護な奴ら
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ざぁざぁと雨が降る。
誰もいない公園にはパンダの乗り物と、錆びた滑り台。
そして中央のブランコに座る栄子の姿。
彼女はくすんだ空を傘越しに見上げた。
『しゅうちゃん…しゅうちゃん…』
涙をだらだらと流しながら幼い栄子は地面に座る秀一の前で泣きじゃくる。
彼の顔には殴られた跡。
膝には転んだときに負った傷。
雨の中、自分を守るために傷ついた彼。
大の大人に殴られ、幼い彼の顔は痛々しい程腫れてきている。
『しゅうちゃん、ごめんなさい…』
彼の顔を見るたび涙が溢れてくる栄子。
『…もう、知らない人についてっちゃだめだよ?』
優しくそう言い頭を撫でる。
初めて頭を撫でられた思い出の日…。
初めて撫でられた時はすごく嬉しかったのだけど異様に恥ずかしくて子供ながら照れていたのを今でも思い出す。
「こんな所にいたのか…。」
飛影の声で我に返る。
前には傘をさす彼の姿。
「…こんな雨の中、こんな所で考え事か?」
怪訝そうに眉を寄せる。
「…飛影…、どうしたの?」
「…俺の忠告を忘れたのか。」
「…あまりふらふら一人で出歩くな、でしょ。」
分かってるよ、と苦笑する栄子に、どこがだ…と、呆れる飛影。
栄子は再び傘越しに空を見上げる。
「ここに来たかったんだ。ごめんね。」
「…こんな錆びれた公園にか?」
すると彼女は彼に向き直り、ふふふと嬉しそうに笑う。
「ここはね、願いの叶う公園なんだよ。」
「……。」
「雨が降ると最近は来たくなっちゃうの、ここ。」
そう言うと、再びじっと空を見る。
「…雨、か。」
飛影も空を見上げる。
空は薄暗く、見ても何か感じるわけもないが、隣でこうも幸せそうに空を見上げている彼女を見ていると、この空が特別なものに思えてくる。
「……秀一との思い出か?」
「…まぁ、ね。そういえば…飛影はなんで秀ちゃんと友達なの?」
少しぎこちなさそうに答える栄子。
思い出話をする気はなさそうな切り替えしに、飛影自身も聞いた所で気持ち良い話ではなさそうな為あえて聞かないことにした。
「…始めはお互いの目的のため、手を組んだだけだった…。」
「人間と妖怪が手を組むって、すごいね。」
「……そういう時もあるさ。あいつも必死だったからな。」
飛影は当時の事を思い出す。
自分の母親を助けたいからと自分の命を暗黒鏡に差し出そうとしていた秀一の姿。
「……そう、なんだ。」
(私って本当に彼の事何も知らないんだな。いつも自分の事ばっかり…。)
幼なじみゆえ栄子自身、自分が一番理解していると思っていた。
しかしよく考えれば彼から何かを相談を受けた記憶も、悩みも聞いたことがない。
妖怪と人間が手を組む程の目的も聞いてはいない。
母親や身内には、魔界の存在を公にして良いのか分からず、しらない世界だと始めは言っていた。しかし、彼には少なからず魔界に言ったことは話していた。
実際栄子が魔界に行った事も彼は知っているのに、なぜ自分も関わりがあると教えてくれなかったのだろうか。
考えれば考えるほど、悲しくなってきてしまう。
特にこの場所にいると、よけいだ。
「私だけなのかな…、仲良しって思ってたの。」
なにやらいきなり凹んだ様子で、泣きそうな声で呟く彼女に、やれやれと飛影は苦笑する。
「あいつは嫌いならとっくに離れてるさ。心配するな。」
「…今、避けられてるんだけど…」
うるうると目を潤ませ彼を見上げる。
「……。アホが、帰るぞ。」
付き合ってられんと飛影は踵を返す。
狐の心情を理解している飛影は「おまえが鈍感なんだ!」と栄子に言いたいもののそこは口を閉ざす。
あれだけ直球で求められても気付いていない栄子に、飛影までもイライラする位だ。
ただ、だからと言って狐の気持ちに答えて欲しいわけではなかった。
「帰るぞ、来い。」
彼女の腕を引くと、お互いの傘がぶつかる。
「わかったよ、もう。」
栄子は自分の傘をたたむと彼の傘に入る。
そして、へへへと笑う。
「秀ちゃんと飛影って似てるね。やっぱり。」
「どこがだ。」
「……どこだろ。」
自分で言っておきながら、首を傾げ考える栄子。
「雰囲気??」
「似とらん!」
「…なんで怒るのかな。」
「……怒ってない。」
ふふふと笑う栄子。
飛影は軽く息を吐く。
先程まで泣きそうにしていたのに、この切り替わりっぷりには毎回驚かされる。
「…ラーメンでも食いに行くか。」
「私、こないだ食べたよ。」
「俺は食っとらん。」
えぇー!!という彼女を他所に飛影は「なら食おまえは食うな」と勝ち誇ったように笑う。
食欲旺盛な彼女は、しかたないなぁ…と笑うと、
そんな彼の袖を引っ張りおごってね!と首をかしげ微笑む。
やろうとしてやり返された気分の飛影は、面白くなさそうにため息を付いたとは、言うまでもなかった。