王宮に残された調書

 XX年XX月XX日において催された夜会を発端とする諸問題について、
事実に基づき客観的な記録をここに残す。

 夜会に出席していた王女ビアンカ及び、ノイモント伯爵の御息女であるトリトマ嬢との間でのやりとりについて、目撃者の証言をまとめた。

 王女はトリトマ嬢を見つけるなり、このように呟いたという。

「かわいそうに。私に愛を囁く殿方と婚約だなんて。愛してくれないと分かった上での結婚は、さぞお辛いでしょうね」

 王女のよく通る声は、多くの者の耳に届いていたようで、
同一の証言を複数得られた。
 また、動揺するトリトマ嬢の姿も、複数の貴族や給仕に目撃されている。

 トリトマ嬢の婚約者は、エルフェンバイン子爵の嫡男だったロベルトである。
 尚、ロベルトは後述する通りすでに廃嫡されているため、ここでは敬称を略す。

 一国の王女をたぶらかしたロベルトの醜聞は、瞬く間に広まった。

 王は自ら王女に噂の真偽について問うた。
 王女は自分とロベルトが愛し合っていると証言した。

 一連の出来事はどこからか隣国に漏れ、王女の婚約者である王太子の耳にも入り、当事者達に直々の手紙が届いた。

 王女の輿入れを心待ちにしていた隣国の王太子からの手紙は、
怒りと落胆に震える文字で書かれていた。
 友好的であったはずの国家間に、溝が入ったのは言うまでもない。

 事態を重くみたエルフェンバイン子爵は、早々にロベルトを廃嫡し、領地の一角にある廃村の屋敷に軟禁すると決めた。

 王が子爵の判断を妥当と見做したため、王による裁定は行われなかった。

 当のロベルトは、王の御前にあっても無罪を主張したが、子爵に叱責され、大人しく罰を受け入れた。